06.クレーム対応
貴重な休みが終わった。
再び【リーインカーネーション】で受付業務の日々。目まぐるしい毎日……。
(冒険に出たい……。冒険に出たいよぉ……)
切実な望みは疲労によって薄まっていく。
次第にそんな思考も余裕もなくなり……
パタリと倒れた。
「……………やっと終わった……」
自宅に帰り、そのままベッドに落ちた。
フカフカの感触が眠気を誘い、わたしは……そのまま眠った。
◆◇ ◆◇ ◆◇
「――――ハッ」
時は深夜。
外は真っ暗闇。冷気が頬を突く。
「さぶ……」
しかもまだ制服のまま。
服は支給されたもの。メイド風の可愛いヤツでお気に入り。普段着にしても違和感はない。あまりに洗練されたデザインだから、欲しがる女性も多いのだとか。よって、盗難も発生するほど。
「脱ごうっと……」
いそいそと制服を脱ぎ捨て、下着も。
裸になってそのまま浴室へ。
熱いシャワーを浴びた。
「…………はぁ、冒険に出たいなぁ」
明日も仕事があるし、残業もある。
次に冒険に出られるのは一週間後とかだろう。このままでは、満足にレベルも上がらないし、感覚も鈍っちゃう。
どうしたらいいのだろう。
もちろん、冒険者を導くのも楽しい。それがわたしの使命だと思っている。わたしがいなければ、みんなが困る。
「そうだ、わたしはやっぱり受付嬢なんだから……」
――でも。
あの言葉が引っ掛かった。
ネメシスの別れ際の『心に従えばきっと――』。
あれがずっと脳から離れないでいた。
わたしの心はどうなのだろう。
◆◇ ◆◇ ◆◇
――ある日、いつも通り受付をしていると。
「だから、お前のクエスト情報が間違っていたんだよォ!!」
大男がクレームを入れてきた。
彼は『Lv.2』ほどの初心冒険者らしく、まだ右も左も分からないようだ。そんな男が興奮気味に机を叩いていた。周りの冒険者もドン引き。
「申し訳ございません。至急確認しますので……」
「あァ!? ざけんじゃねぇ! おい、クソ受付嬢……こっちは貴重な時間を割いて来てんだぞ。責任を取れや、責任を! 裸になって土下座しろや! 謝れ!」
――と、男は、わたしにそんな強要をしてきた。
対応マニュアル第9条第3項『悪質なクレームと暴力の対応』に則り、わたしは全力で拒否した。
「どうかお引き取り下さい。他のお客様のご迷惑になりますので――」
「っせんだよォ!! ゴミ嬢が!!」
バキッと机が蹴られた。それから、手を伸ばしてくる男は、わたしの肩を強く掴んだ。これは暴力認定で良いでしょう。
「…………お客様、暴力はいけません!!」
わたしは咄嗟の判断で[打撃]で対応した。
拳を鳩尾に入れて大男を吹き飛ばした。
男は建物の壁に激突。倒れた。
「ぐふぉぉ………!! げへっぇぇ……」
その状況にシンと静まり返る。
そして、
「おぉぉぉぉ……あの姉ちゃん強いな」「受付嬢の姉ちゃんがやったのか!?」「マジ……あの子、レベルいくつなんだ?」「受付嬢って強いんだな」「大男が白目剥いて倒れてらぁ」
ギルド内がざわつく。
……い、いけない。つい本気を。
一応、男の方へ向かい生死を確認する。
……良かった。死んではいない。
近くにいた癒術師様に『ヒール』をお願いし、回復しておいてもらった。
それからどうしようと悩んでいると、剣士や商人など複数の方があの大男を担ぎ始めた。
「受付の姉ちゃん、あとは任せな」
「え……はい」
その動向を見守っていると――
冒険者たちは大男をギルドの外に捨てた。
ドシャっと嫌な音がして、大男はまた倒れた。
「えぇ……」
「気にすんな姉ちゃん。俺らは見ていた。あの男が暴言を吐き、その上、姉ちゃんの肩を強く掴んで暴力を振るった。だからヤツが悪い」
そう剣士の冒険者に言われ、納得した。
「そうだ、グレイス。お前のクエスト情報は間違っていなかった。アレは、あの大男の妄言。つまり悪質な嫌がらせだ」
上司がいつの間にかいた。
しかもそんな理由を教えてくれたのだ。……そうだったんだ。わたしは間違っていなかったんだ。
――良かったあ……。