59.ホンモノの想い
恐るべき元上層部四人を倒した。
鉱山へ飛んでいったソールを除いて、イノセンス、レーグル、ロワは地面に倒れ気絶していた。息はあるようで死んではいなかった。これでいい。後は帝国・サンクチュアリの騎士たちが処理してくれる。
二十いたザンキも元の姿に戻った。
本来、ザンキは元には戻らないらしいけれど、わたしの『覇王聖女』の力が奇跡を呼び起こした。なぜそんな効果が発現したのか分からない。でも、みんなを救えた。
だから、覇王聖女になった意味はあった。
勝利を祝うみんなの姿を眺めていると――
「グレイス」「グレイスさん」
ネメシスとアルムが駆けつけてきた。わたしは二人の顔や体を確認。無事である事を認識して安堵した。……良かった、ケガはないみたい。
「素晴らしい活躍でしたよ、グレイス」
「グレイスさん、貴女は最高のギルドの受付嬢です」
二人から抱きしめられ、わたしは……
泣きそうになった。
でも堪えて、笑顔で。
「ありがとう、皆を守れたよ」
わたしたちは喜びを分かち合った。
◆◇ ◆◇ ◆◇
――次の日。
オラクル邸の玄関前。
いつもの優しいエイルさんの姿があった。わたしを庇い、一度はザンキとなってしまったけど……でも、わたしの覇王の力で元に戻った。上司を救えて本当に良かった。
「エイルさん」
「おはよう、グレイス。あの時は助けてくれてありがとう」
「いえ、わたしも酷い事を……」
「もういい、もう過去の事はいいんだよ。あれは私が悪かった。私はグレイスが大好きなのに……ごめんね」
またぎゅっと抱きしめられた。
……やっぱり、エイルさんは優しい。
◆◇ ◆◇ ◆◇
オラクル邸の庭へ出ると――そこには何故かルトくん。いえ、アルシュ皇帝陛下が姿を現していた。
「皇帝陛下……」
「いや、僕の事はルトでいいよ」
「ルトくん……」
「うん。……あの時、僕はお姉さんに冒険出たらって進めたでしょ」
「そうね、あれがなかったら、わたしはずっとギルドの受付嬢だった」
「僕はね、僕自身もこんな立場だから冒険の楽しさを知りたかったんだよ。だから、お姉さんの今の気持ちがよく分かる」
そう、彼がいなかったから、今頃は平凡かつ多忙な受付の仕事をしていたに違いない。ネメシスやアルム、フォーサイト様やフレイヤさん、リーベ先輩とも出会えなかっただろう。
この帝国に帰ってくる気すらなかったかも。
――――ああ、そっか。
わたしの中でとくんとくんと音がした。
……わたし、ルトくんが好き。
これが本当の恋心だったんだ。
彼の白髪が風に揺れる。
「ルトくん。わたし、貴方が好きです」
「いいのかい、こんな僕で」
「ううん、冒険のキッカケをくれたし……あの時も駆けつけてくれたもの。フォーサイト様を通して、ずっと見守ってくれていたのよね」
誤魔化すようにして頬を掻くルトくん。
やっぱりね、フォーサイト様から情報を逐一報告して貰っていたのだろう。そうでなければ、あの時、駆けつけて来れないはず。
そう、だから……
わたしはフォーサイト様というより、その背後にいたルトくんを好きになっていたんだ。確かに彼は魅力的な騎士ではあったけれど、心の真意を読み取ればここへ辿り着く。
ずっとずっとルトくんは、わたしを見てくれていた。
見守ってくれていた。
この想いはホンモノ。
もう我慢できなくて、わたしはルトくんを抱きしめた。
「ルトくん」
「お姉さん……いや、グレイスさんにもっと好きになってもらえるよう努力する」
「うん、わたしももっとルト君の事が知りたい」
今日から、わたしとルトくんの密かな恋が始まった。




