58.最終奥義
覇王聖女となったわたしは、凄まじい力を手に入れてしまった。
『覇王激流拳――――――!!!』
一瞬でソールの元へ到達し、彼の腹部に奥義を捻り入れた。すると、ぶっ飛んで――建物の壁を何十にも割って遠方へ。
……自分でも驚いた。
ここまでパワーアップしてしまったとは。
これは『覇王聖女』の力なの!?
それから暫くして、鉱山・ハイドロゲンの方で爆発が起きた。山の高さをも越える大爆発だった。とんでもない火力!
「……馬鹿な、ソールを一撃で!? しかも、ザンキも消えてしまった……どうなっている!!」
激しく動揺し、驚愕するロワ。形勢逆転ね。とにかく、これであと三人。駆けつけてくれた人たちも応戦してくれているが、並の冒険者では上層部三人へ近づけもしなかった。それほど向こうのレベルは高い。
ネメシスとアルムは、レーグルの相手をしていたけど、相手は回避力が高いみたい。なかなか仕留められていない。フォーサイト様の方もロワの方へ。
――やはり、覇王聖女となった自分が斃すしかない。みんなをこれ以上、危険に晒す前に決着をつける。
わたしは、みんなを守る為にも飛び出した。
今度は、イノセンス。
あれは筋肉量も桁違いのパワー系。ちょうど冒険者五十人が彼に対し攻撃を加えているが、まったくのノーダメージ。強い、強すぎる。
でも!
わたしは、一瞬でイノセンスの背中に回り、奥義を打ち付けた。みんなが必死に戦っているおかげで、隙だらけだったのだ。
『奥義……覇王天翔拳!!!』
「グォォォォォォォォォオッ!?」
地面に激しくメリ込み、地面に大きなクレーターを作った。彼は戦闘不能になった。これは、わたしの力だけではない、駆けつけてくれた皆の力もあったからこそ!
「……お、おい、ロワ! あのグレイスのお嬢ちゃん……バケモノのような力を手に入れているぞ、どうなっているのじゃ!! あの銀髪と桃色メイドも只者ではない」
「わ、私に近づくな、レーグル! こっちは、インペリアルガーディアンや帝国の騎士で手一杯だ…………ぐぅ!!」
そう相手が焦っている間にも、わたしはレーグルの上に飛んだ。覇王聖女の力を手に入れてから、身体が軽かった。まるで背中に天使の羽でも生えているような。そんな身軽さ。
「馬鹿なあああ――――ッ!!!」
レーグルはギョロリとした目をカッと見開き、わたしを恐れていた。逃げようと必死に背中を向けるが、もう遅い――!!
『奥義、覇王岩礁拳!!!』
宙から奥義を高速回転させ、無数の岩が、地属性が槍のような形状となり向かって行く。と、同時に拳もまた彼の背中に叩き落とした。
「ぶぅぉぉぉえッ!!」
老体もまた地面にメリ込み、大きなクレーターの中に沈んだ。一応、高齢者なので手加減はしたつもりだ。死んではいないだろう。
そして、残り一人。
恐らく上層部のリーダーでだあろう、女――ロワ。相変わらず不気味な紫の長い髪を風で揺らしている。その表情に余裕はもうないけど。
「……き、貴様……グレイス、どうしてそんな力を……! ザンキもどうして元に戻った! ありえないっ!!」
「わたしは覇王聖女です。これが本来のわたしなのですよ。誰の手によるものか存じ上げませんけどね」
「なにが覇王聖女だ!! そんなモノは心の幻想にすぎないはず……あの方がそう仰ったのだ……!! きええええええええ!!!」
発狂するロワが何かのスキルを発動した。
けれど。
「最終奥義……」
覇王聖女となった瞬間に習得した『最終奥義スキル』だ。消費SPも非常に高く、今のわたしのレベルで撃てるのは精々、一発。これに全てを賭ける!
「なっ……! 最終奥義だと!! そんなものォ!!」
抵抗をしてくるロワは、闇属性のダークストライクという塊を放ってきたが、フォーサイト様が黄金の剣で薙ぎ払ってくれた。
「……グレイス! あとは任せたぞ!!」
「ありがとう、フォーサイト様!!」
ロワは、再びダークストライクをいくつも飛ばしてきた。でも、フォーサイト様が……いや、みんながわたしを守ってくれた。ネメシスもアルムもリーベ先輩も、あのフレイヤさんやエイルさんでさえ。たくさんの冒険者。帝国の騎士も。
この想いを拳に!!!
渾身の一撃を放つ。
これで、これで本当に最後。
全身全霊の想いを篭める!!
『覇王轟翔波――――――!!!!!』
超莫大なエネルギー、赤黒い波動が、ロワへ。彼女は、抗おうと必死に押し返そうとするが、最終奥義の破滅的な力の前に成す術なく――
「馬鹿なあッ!? こんなのは有り得ない……あの方は……、あの方は『ザンキ』ならば勝てると……!! この世界をカオスで支配できると……ふざふざふざふざふざけるな、ふざけるあなあああああああああああああ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
――――――。




