57.覚醒、覇王聖女
元上層部四人は、さすがの人数に驚いていた。まさか皇帝陛下までも現れるとは、思わなかったらしい。
「おい、ロワ! サンクチュアリの皇帝も現れるとは聞いておらんぞ!!」
焦りまくるレーグル。
「う、うるさいわね、ボケ老人……」
「なんじゃとぉ!?」
「く……どうすんだよ、ロワァ!! これじゃ、負けちまうぞ!!」
「いいから、あんたはザンキを増やせ、ソール」
「ったく、ザンキ扱いが荒いぜぇ~……」
ソールは、どうやらザンキを増やす能力を持っているみたい。あれには注意しなきゃ。
「――仕方あるまい、このオレが雑魚冒険者の相手をしよう」
むんと巨体で向かって来るイノセンス。拳を強く振るって、冒険者を一撃で吹き飛ばしていた。なんて力なの! とんでもないダメージを受けた冒険者が次々に民家の壁へ激突していた。
その状況を見守っていると、ネメシスが神妙な顔つきでつぶやいた。
「あの、グレイス……」
「?」
「もし……もし人間を超越出来るとしたら、貴女はどうしますか?」
「人間を超越?」
「ええ、それは以前にも申した『覇王聖女』です。今の貴女は、まだただの聖女。真の覚醒をすれば、覇王になれるのです」
「人々の笑顔を守れるなら……心を守れるのなら……わたしは何にだってなれる」
「ギルドの受付嬢は、もう出来ないかもしれませんよ。それでもいいんですね」
もう覚悟は決まっていた。
たぶん、あの冒険に出た瞬間から。
ルトくんと出逢ったあの瞬間から。
「はい」
「……分かりました。グレイス、貴女には『恩寵』と『栄光』を与えます。これが覇王としての最高にして最強の力」
胸に手を当てられ、力を流し込まれた。
あたたかい。
まるで心を温められているような。
そんなぬくもり。
「――――」
そっか。
わたしは、ギルドの受付嬢なんかじゃなかった。
はじめから……
覇王だったんだ。
赤い力が、オーラがわたしを包む。
「…………」
バリバリと覇王の力が生まれ、開花した。
分かる。
この力は、心の奥底に封じ込められていたんだ。理由は分からないけど、でも、ずっと『恩寵』として残り続けていたのだ。
「グレイス?」
アルムが心配そうに顔を覗かす。
「アルム、みんなを避難させて下さい」
「……分かりました。でも、その前にこれを」
アルムから差し出されるアイテム。
それは『紅蓮のバンテージ』だった。
わたしが欲しかったやつ……アルム、買ってくれたんだ。
それを受け取り、すぐに装着した。
わたしの拳に『紅蓮』が宿った。
赤い長い布が風でパタパタと揺れる。
それから、改めてネメシスを見た。
「ネメシスさん、わたしはこの戦いを終わらせます。覇王聖女としての役目を果たします……!」
「ええ、終わったらまた冒険へ行きましょう」
約束を交わし、わたしは一気に加速した。
軽い、なんて軽いの。
「うわ、なんだ!?」「なんか、突っ込んできたぞ!?」「ええ!?」「なになに!?」「びっくりしたあ!!」
驚く冒険者たち、ザンキがまだ十五は残っている。ただ、倒れているザンキが五で、倒し切れてはいない。
でも、倒す必要はない。
『覇王爆炎拳――――――!!!!!』
奥義を一振りするだけで、ザンキだけをぶっ飛ばした。しかも、ザンキは一瞬で色を変え、その姿を戻した。
なんと冒険者の姿に戻ったのだ。
「あれ、俺……」「え、なんだこりゃああ!?」「僕たちどうしていたんだ?」「なんで、こんなところに」「ええ!?」「なんか人多くね!?」
それから、
「わ、私はいったい……」
エイルさんも元に戻っていた。
良かった……。
「エイルさん」
「グ、グレイスか!? 私は……」
「ありがとう。そして、ごめんなさい」
わたしはエイルさんに飛びついて、謝った。
「……グレイス、私を助けてくれたのか。こんな救いようのない私を」
「そんな事ありません。あなたは、今まで出会った中で最高の上司です」
「……グレイス」
ぎゅっと抱きしめ合って、やっと和解した。
その間にもソールが飛んできた。
わたしはエイルさんを抱っこして、後退。
「エイルさん、下がって!」
「分かった。負けるんじゃないぞ、グレイス!!」
「ええ!!」
それから、わたしはソールと対峙。
全員、ぶっ倒します。