55.覇王と冥王
元上司・エイルさんに命を救われた。
だったら、足掻かなきゃ嘘だ。
溢れる涙を拭って、わたしは上層部四人とザンキ二十と対峙した。
「お前たち、全員倒します……!!」
そう言い放つと同時に、ザンキが迫り来ようとした。
――その時。
『覇王天翔拳――――――ッ!!!』
見た事のある奥義が飛んでいた。
それは、ザンキを五ほど吹き飛ばした。なんて威力。これは間違いない……来てくれたんだ。
「遅れて申し訳ありませんでした、グレイス!!」
ネメシス!!
それから鍬の一閃が上層部四人へ。
彼らは、突然の攻撃に回避し、逃げ惑った。
「――ちっ、避けられましたか! 私も来ましたよ、グレイス」
アルム!!
二人はわたしの元へ駆け寄って来てくれた。
「ネメシスさん、アルム……」
「遅れてごめんなさい。わたくしの方でもザンキが出現し、その対処に追われておりました」
そうだったのね……。
「まさか元上層部が暴れ回っていたとは……想定外でした」
焦る顔のアルム。
そうか、彼女ですらこの状況は読めなかったワケだ。
「二人とも……エイルさんが……」
「……エイルが……どうしたのですか!?」」
「わたしを庇って……」
ネメシスもアルムも凍り付く。
特にアルムは深いショックを受けていた。姉だから当然だ。
「……そんな、お姉ちゃん……」
悲しみに暮れるアルム。
その一方でネメシスは、怒りに震えていた。
「あの四人ですね……」
ネメシスは、レーグル、ソール、ロワ、イノセンスを睨む。すると、ロワが前へ。
「む……そこの銀髪、お前は誰だ」
「名乗るほどの者ではありませんよ。……エイルの知り合いです」
「そう。その横の桃色の髪には見覚えがある。アルムだな。残念だね、エイルを失って……あの女は良い手駒だったよ」
そうロワは酷い事ばかり言う。
この女は絶対に許せない。
「…………お姉ちゃんを返せ」
「その姉ならもうザンキの姿さ。ほぅらご覧。あの少し赤みの掛かったのが元エイルさ。人間はね、心を汚染されれば、あんなにも醜い姿になっちまうのさ。
皆、心の奥底には怪物を飼っている。ある時、タガが外れると混沌の渦が支配する。それがカオスの権化の正体さ」
無常に言い放つロワ。
レーグルが言葉を続けた。
「最近、外界を心の無いNPCですり替えるという、帝国・サンクチュアリの抵抗を垣間見たが……それも無駄。いくら感情が、心がなかろうとも根本は人間。あらゆる世界からリーンカーネーション……つまり、転生した冒険者たち。我々はその猛者共の心を糧としているわけですな」
「もう話はいいだろォ! また極上の心が増えた。さっさと喰っちまおうぜぇ……この聖域をぶっ壊すためになァ」
ソールが今にも飛び出そうとしていた。
「――さっさと決着をつけようではないか」
イノセンスが動き出す。
上層部も一気に畳みかけてくるって事ね……。
こっちは三人。
上手く行くかどうか……。
心配になっていると、空から何か落ちて来た。
『奥義!! 冥王武光拳――――!!!!!』
白い光がザンキを襲った。
こ、この技ってまさか……。
と、思ったが違った。
そこに現れたのは……
「リーベ先輩!?」
「やあ~、グレイスちゃん。私も駆けつけたよ~」
まさかの先輩だった。
ていうか、奥義を……?
「せ、先輩……貴女は……」
「あ~、言い忘れていたね。そちらが『覇王』なら、私は『冥王』の使い手ってとこかな~」
あはは~と笑うリーベ先輩。
いやー…よく分かんないって。
さらに、フレイヤさんも現れた。
「グレイス!」
「フレイヤさん!」
「エイルがこっちに向かったはずだが、どうなった!」
「……エイルさんは……わたしを庇って……」
「……あのバカッ。グレイスを守るって言って飛び出して行って……」
「そうだったのですか……」
「ああ……本当に後悔ばかりだな、アイツ」
悲し気な瞳でわたしを抱きしめるフレイヤさん。……わたしも後悔した。もっときちんと話すべきだった。
「また増えたましたな。ロワ、これ以上増えられると厄介ですぞ」
「ああ、もうヤツ等をザンキに変える」
ロワが指示を出し、向かって来るザンキ。
まだその数は多い。
――――けれども、そこで奇跡は起きた。