54.諦めてはならない
突如現れた上層部四人。
レーグル、ソール、ロワ、イノセンス。
この四人が……裏でザンキを操っていたなんて……。
こんなのは許せないし、彼らの勧誘を受けるつもりもなかった。
「お断りします!」
「……ほう、断るというのか」
不気味に笑うロワは、想定内といった感じの様相で頷く。それから、手を挙げた。
「ならば、この二十のザンキに飲まれるがいい」
「……!!」
迫りくる元冒険者二十人のザンキ。
彼等を倒すなんて……わたしには出来ない。
彼らは確かにそこにいた冒険者だったのだから……。それはつまり、なんの罪も犯していない人たちを殺すと同義。
手も足も出ない。
絶体絶命の、ピンチ。
…………どうすれば。
このまま死を受け入れるしかないの?
「……諦めたくないけど」
方法は思いつかなかった。
わたしにザンキを戻す力なんてない。その方法も分からない。彼がが言うにはそんな方法もないと言う。
がくっと項垂れて――
地面に膝をつく。
「どうやら、ザンキを受け入れるようですな」
頭をボリボリ掻きながら、レーグルは言った。
その通り、わたしに出来る事はもうない。
「…………」
残りのソールとイノセンスもニヤニヤと笑うだけ。それから、ザンキ二十人はわたしの方へ襲い掛かって来て――――。
これで、わたしは終わり。
そう思った。
「……諦めるな、グレイス!!!」
二十のザンキに飲まれる寸前で声がした。
厳しくも懐かしい声。
桃色の髪が揺れた。
赤い瞳がわたしを優しく見た。
「…………え、うそ……エイルさん?」
「ああ……今こそ罪を償う時が来たんだ。グレイス、すまなかった……」
「ど、どうして!?」
「私はずっと後悔していた。お前に酷い事言ってしまったからな……だから、せめてもの償いだ」
だからって、命を投げ出す事は!!
ザンキはエイルを襲って――
「うああああああああああああああああ……」
…………うそ、エイルさんが飲まれちゃった……。
上司が……ザンキに……。
「――オイオイ、今のはエイルではなかったか、ソール」
「あぁん? そいや、そんなヤツいたなぁ、我々を尾行していたか、あの使えねえエルフ」
ソールは馬鹿にしたように笑った。
ウソ、ウソよ……エイルさんが?
どうして……わたしなんかを。
……くっ。
「愚かね。ザンキに飲まれるとは」
そう冷徹に、感情なく言い放つロワは再び手を挙げる。……せっかくエイルさんが守ってくれたのに。それなのに……!
そうだ、エイルさんは言っていた。
諦めるなって。
「――――」
「ほう、立ち上がるか……グレイスのお嬢ちゃん」
意外そうに見つめるレーグルは、興味深そうに顎鬚を撫でた。当然よ、わたしはもう諦めない。諦めたくない。
「エイルさん……わたしの為にごめんなさい。この命を決して無駄にはしません。貴女の想いは受け取りました」
わたしは毅然とした態度で拳を構える。
目の前にはザンキ二十。
戦うしか――ない。




