52.露店巡り
今日も『クエスト』の受付を処理していった。
やっぱりというか、わたしに冒険者が殺到した。嬉しいけど、これだけ多いと大変。多分、今日だけで1000人は捌いたと思う。
それと同時に、数々のデートのお誘いや告白。
嬉しいけど……断るのも精神的に疲れた。
休憩室に入って、椅子に座った。他に同僚とかはいない。ひとりぼっちだった。
「…………はぁ」
なんて独りで疲れていると、フレイヤさんが部屋に入って来た。
「なんだ、グレイス。溜息が多いぞ」
眼鏡の奥にある赤い瞳でわたしを凝視するフレイヤさん。ルビーのように美しい。
「……いえ、ごめんなさい」
「謝る必要はないが……。新しい職場環境に慣れないのか?」
「そうではないんです。同僚も先輩もみんな良い方です。これまでにない素晴らしい職場環境ですよ」
「そうか、それは良かった。ところでアルムなんだが……あの子はどうかな」
急にアルムの事を聞かれる。
多分、わたしと居る時のアルムを聞きたいのかな。
「良い子ですよ~。冷静でブレない所とか、木目細かな気遣いとかに救われています。冒険の時は鍬攻撃がカッコイイですね」
「そう評してくれて姉として鼻が高いよ、ありがとう。ずっと友達でいてくれると嬉しいな」
「もちろんです。わたしの方こそオラクル家のお世話になりっぱなしで……少しはお礼したいです。あ……そうだ、給料全額返還とか」
「それはダメだ。労働基準法で定められているし、給料は必ず受け取らなきゃいけない。それがギルドの掟だ」
「そ、そうですよね」
でもそうだ。
少しはお礼をしないとなあ。
◆◇ ◆◇ ◆◇
定時で終わった。
定時サイコ~~~!!!
女子更衣室で身体を伸ばす。さっさと着替えて――。
「…………」
まただ。
また誰かに見られているような……気が。
「……誰かいるの?」
透明になれるスキルとか装備も実在する。だから、そういうのを使って、わたしをストーカーしている……とか。
スキルなら『インビジブル』。
でもこれは、かなりの高レベルかつ『ダークチェイサー』のクラスを要する。そんな高位職は、この辺りじゃあんまり居ない気が……。可能性はゼロではないけど。
装備なら神器に相当するアーマー『エア』だ。でも、そんなウルトラレアアイテムは、世界にひとつあるかどうか。
そういうスキルとか装備を駆使しているとしたら……。
ゾッとする……。
「……さっさと出よう」
◆◇ ◆◇ ◆◇
私服に着替えて、わたしはジェネシスを出た。
今日は珍しくネメシスやアルムの出迎えはなかった。用事でもあるのかな。
「……ちょっと寂しいですね」
ぽつりと呟きながら、街を歩く。
空は茜色。もうすぐ日が沈む時間。
それでも、露店に活気はあった。
たまには装備を整えて行こうと見まわった。通路の至るところに露店があるから、目移りしてしまう。
「へぇ……」
見たことのない剣や短剣。盾や鎧、杖やカタール、グローブに楽器やら種類が沢山あった。
「……まって、グローブ! おじさん、このグローブは?」
「らっしゃい、お嬢ちゃん。ほぅ、女の子なのにグローブとはね。なんだい、キミは物理職なのかな」
「え、ええ……そんな感じです」
「そうかい。これはね『紅蓮のバンテージ』と言ってね。包帯のような布なんだよ。すっごく頑丈で破損率も低いよ」
「鮮やかな赤色ですね~…綺麗」
「そうだろう。効果を見て行くかい?」
「お願いします!」
その装備が気になって、効果を見てみた。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
【紅蓮のバンテージ】
【部位】武器
【Effect】
最高のポテンシャルを引き出すバンテージ。
ATK100
攻撃速度 + 10
完全回避 + 5
精錬値が[7]以上の場合、
精錬値が[1]アップする毎に
全種族に対する物理ダメージ + 50%
エンチャント[改]の場合、
スプラッシュダメージになる。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
「こ、これはレアアイテムね……!」
「うん。滅多に手に入らないアイテムだよ。ある冒険者から買い取ったんだけどね~、ほら、拳の物理職って中々いないだろう。モンク職とか……それこそ伝説の覇王聖女様くらいだよ」
ということは、まだ買い手も付いていない。
買うしかない!
「おじさん、これいくら!?」
「そうだねぇ~、一応それでもレアアイテムだから『150万セル』だなあ」
「――――え」
ひゃ、ひゃくごじゅうまんせるぅ!?
…………お給料、八か月分…………。
尚、手持ち無し……。
がっくし……。