05.銀髪の少女
大量のモンスターを連れる行為は『トレイン』とも呼ぶマナー違反。けれど、低レベルの冒険者はたまに、ああなってしまう時がある。
緊急事態ということで仕方ない。
それなりにレベルの上がったわたしは、冒険者を助ける事にした。
『打撃からの……ディバインナックル!!』
うまく連携させ、スキルをぶつけた。
けれどゾンビが多すぎて噛みつかれた。
「いたぁっ!!」
はじめてダメージを受けてしまった。
すぐにレッドポーションでHPを回復させた。
「10……いえ、20はいますよね。これは厳しいかも……でも諦めません。冒険者として……なによりも受付嬢として!」
上司のエイルさんが言っていた。
諦めない心が人を強くするんだって。
わたしもその通りだと思う。
「だからっ! てやあああッ!!」
打撃、スキル、打撃、スキル、打撃、スキル、打撃、スキル……それを永遠と繰り返し、敵の数を減らしていく。
――そして、
あと一体!
「これで…………あれ、スキルが発動しない!」
まず……使いすぎて『SP』が底をついたようだ。このSPがないとスキルは発動できない。回復アイテムも持っていない。
ゾンビが凄い勢いで向かって来て、わたしの肩を噛もうとする。
「……ぁ」
終わったかも。
体力もだいぶ削られえているから……ひと噛みされれば、死ぬ。……ウソ、わたしの冒険はこれで終わり? 嫌だ……そんなの、そんなの!!
諦めずにギリギリのところを回避、鋭い歯が服を裂いた。そこで間髪を入れず、SP0で発動できる[打撃]を入れた。
「チェストォ!!!」
ゾンビの顔を目掛けて拳を入れた。
激しい衝撃で敵を吹き飛ばし、遥か彼方へ。
ばんと破裂し、塵となった。
「…………やった」
およそ20体いたゾンビを倒した。
おかげでレベルも随分と上がった。
【Lv.5】→【Lv.10】
急いでレッドポーションで回復。
体力を維持した。
「……ふぅ、なんとか」
呼吸を整え、わたしは逃げていた冒険者の元へ。
その人は、地面に腰をつけポカンとしていた。
フードを深く被り顔がよく見えない。
「あの……大丈夫ですか?」
「……ええ。お陰様で助かりました」
ゆっくりと立ち上がる冒険者は……
わたしの方を見据えて……フードを脱いだ。
「――――」
すると、その人は少女だった。
美しい流れるような長い銀髪。
青と桃色のオッドアイは、全人類を魅了するだろう。宝石のように輝いていた。人外レベルの美しさだった。
「きれい……」
それは紛れもない本音。
人をこんなにも美しいと思えるのは……
人生で初めて。
「わたくしは、ネメシス。助けて戴きありがとうございました」
わたしより背の低いネメシスは、見上げてそう言った。……か、可愛い。ていうか、神秘的すぎて話しかけるのも気が引けるほどだ。
「……い、いえ。おケガとかないですね?」
「はい、無事です。ところで、あなた様のお名前は……」
やや首を傾げてネメシスは訊ねてきた。
「わたしは……グレイスです。ギルドの受付をやっているんです」
「へぇ、ギルドの受付嬢さんなんですね。冒険に出ても問題ないのですね」
「ええ。上司の許可は取りましたから、バッチリです。違反でもないようです」
そうわたしが説明すると少女は納得し――
「そうでしたか。グレイスさんはその金の髪がとても綺麗ですね」
唐突に少女は、わたしをあの瞳で映し出した。
そんな見つめられると……なんだか照れる。
「……うぅ。褒められたのは初めてかも……嬉しいです。ネメシスさんこそ独りでどうしてゾンビに追いかけられていたのですか?」
「見極めに」
「み、見極め? なにを?」
ネメシスはやはり、あのオッドアイでわたしを見た。なぜこんなに見られているのだろう。わたしの顔に何かついているのかな。
そうだとしたら、恥ずかしい……。
「グレイスさん、あなたは冒険が好きですか?」
「……は、はい。ネメシスさんは、ギルドの受付嬢でも冒険に出てもいいと思いますよね?」
彼女はニッコリ微笑み、納得した。
「その通り。このわたくしもそうでしたから、グレイスさんの気持ちがよく分かるのです」
「え……ネメシスさんも?」
「そうです。別の国ですけどね。わたくしは、今は旅をしているんです」
「わぁ、ネメシスさんもギルドの受付嬢で……冒険をなさっていたのですね」
それは大変興味深かった。
ギルド受付嬢で、既にわたしよりも先輩がいたとは。世界は広いなぁ。
「……ええ。何れ話すこともありましょう。さて、冒険者たちの視線も多くなってきましたし、わたくしはこれにて」
よく周囲を見渡すと、数十人以上がわたしたちを観察していた。うわ……いつの間にこんな! しかも自分というよりは――やっぱり、ネメシスの方に集中している。ていうか……一点集中って感じ。
あの銀髪は特に目立つ。
そもそも、あの誰もが目に止める容姿なのだから……男性は放っておかないだろう。女のわたしでさえ……彼女を放っておけないなって思った。
「ネメシスさん! また会えますか!?」
「……近いうちに。心に従えばきっと――」
背を向け、バイバイと手を振って行ってしまった。不思議な女の子だった。
「……冒険ってこんな出逢いもあるのですね」
ほわっとした一日だった。
……休日終了……