47.執事
ボスモンスター『IBL5100』の物理攻撃というか、掘削攻撃は恐ろしかった。地面が激しく盛り上がって、波のように土砂が舞ったのだ。
「……凄まじい攻撃速度です。これでは容易に近づけませんね」
珍しく汗を垂らすネメシスは、わたしを守りながら後退していく。気持ちは嬉しいけれど、守られてばかりもいられない。
「ネメシスさん。わたしは、一人でも平気です」
「何を言うのです! 貴女を失ったら、わたくしは……」
「そこまで思ってくれていたのですね」
「当たり前じゃないですか。グレイスは大切なんです。仲間なんです。妹のような存在なんです。だから、グレイスが居ないと辛すぎる」
また全力で回避した。
……嬉しい。こんなにも必死になって守ってくれるとか、ときめいちゃう程に感激。胸がいっぱいになって泣きそうになった。
でも。
それでも。
「わたしも、ネメシスさんもアルムも大切なんです。二人の為ならなんだって出来る。守りたい気持ちは一緒なんです」
だからこそ、守って貰ってばかりはイヤ。
自分も皆の為に戦いたい。
――ああ、そうか。
わたし、冒険が楽しいと思うと同時に……皆を守りたいって思えるようになったんだ。
「グレイス! 離れてはいけません!」
「わたしがボスモンスターの気を逸らします。二人は今のうちに攻撃か撤退を!」
駆けだす。
後ろからは『IBL5100』がわたしにターゲットを変えて、向かってくる。ダンダンダンと鉄の音がして、機敏な動きで接近してくる。動きも早い……。
幸い、わたしは走るのが得意。この場所は広くて逃げやすかった。前だけを向いて、闇雲に走って距離を確保する。もちろん、どこかのタイミングで反撃を――。
その最中でガンと鈍い音がした。
「……え」
振り向くと、多分最初にボスモンスターと戦っていた冒険者らしき人が現れた。
「うそ……」
その人影は、執事のような服を着た白髪のお爺様だった。
ビシッと決まっているオールバック。鍛えられた肉体。白い手袋を嵌めて、お爺様は高くジャンプして『IBL5100』を殴っていた。
『――――――ふんぬっ!!!』
「えええっ!?」
それから体をうねらせて着地。
一気にこっちへ後退して来た。
「え……」
「これは大変失礼しました、金髪のお嬢さん。――いえ、グレイス様。このようなモンスターを擦り付けるつもりはなかったのですが……」
「へ!? どうして……わたしの名前を」
紳士はニコっと笑った。
誰……?
名前を聞こうと思ったら、もう駆けだしていた。
なんてスピード。まるで台風ね。
ぼうっとしていると、ネメシスとアルムが合流した。
「グレイス!! 勝手な行動を……! ……でも、恐れず、怯まず敵に立ち向かう姿勢は素晴らしかった。その不屈の精神が昇華されたその時、貴女は覇王聖女へと生まれ変われるのです」
怒られながらも抱きしめられた。
「ごめんね、ネメシスさん」
それからアルムからも怒られた。
「グレイスさん、無茶はいけませんよ。ケガでもされたら私も怒りますし、姉がもっと怒るので……」
「そ、そか……」
フレイヤさんには心配掛けたくないな。
もちろん、フォーサイト様も。
それにしても――。
「あの執事さん誰だろう」
首を傾げていると、ネメシスとアルムが同時に答えた。
「わたくしの師匠です」
「メテンプリコーシスの領主です」
なんか……二人とも違った答えを出した。
えーっと……。
どうなってるのー!?