46.絶体絶命のブラックゾーン
鉱山ダンジョンのもう少し先へ進む。
幻想的な赤とか青、緑の色彩を放つ鍾乳洞のような通路が続く。そんな光景に心を奪われながらも、奥へ。
向かうにつれ、モンスターの強さも変化していく。レベルも当然変わって来るのだけど、今はまだレッドゾーン。これが急にパープルゾーンに変化する場合もある。
さすがに、急には『ブラック』には成らないとは思うけれど……油断はならない。ダンジョンは、天候や猫と同じように気まぐれなのだ。
細心の注意を払いながらも、ついに奥へ辿り着いた――時だった。
そこはドーム状の広い空間で、奥行きが果てしなかった。ここ一帯がダンジョンになっているんだ。
「この鉱山って、こんなに広いんだ……」
「帝国が金や銀、宝石やエクサニウムを採ったりしていますからね、これだけの規模になってしまうんです。モンスターは自然に住み着いてしまっているだけです」
メイド服の汚れを丁寧に掃い、スカートをパタパタさせるアルムが補足をくれた。
「そうなのですね。……って、ネメシスさん?」
「この岩場に隠れて、グレイス、アルム」
わたしもアルムも姿勢を低くした。
「急にどうしたの……怖い顔して」
「静かに。かなり奥の方で物々しい音がしているんです。アルム、貴女も」
「……はい」
耳を澄ます。
――すると、ギンと鈍い音がして。
「誰か戦っているの?」
「みたいですね。……っ、なんてこと」
ネメシスの表情が焦りに変わる。
「え……」
「ブラックゾーンです」
「ぶ、ぶらっく!?」
「ええ、恐らくボスモンスターですね。IBL5100と推測しますがね。アルム、貴方はどう思いますか?」
「可能性大ですね。ブラックゾーンは、大抵がボスモンスター出現時の括りです。絶体絶命ですよ。不要な戦闘は避け、逃げるべきです」
当然のようにアルムは言った。それはそうだけど……絶体絶命って! 死んじゃうじゃん!
「て、撤退しかないですね」
「ええ、ですがグレイス……もう遅いみたいです」
ネメシスは、わたしを抱えて回避した。
それから程なくして岩が破壊された。
「――――――きゃっ!?」
何かが一瞬で岩を……。
一体、なにが……?
目を開けると――そこには、
『――――グググググ』
巨大な機械のバケモノがいた。
全長十メートルはあるだろうか――いくつものゴツゴツしたギアを世話しなく回し、激しすぎる程の蒸気を上げていた。
腕にも鋼のギア。
あんなものが触れれば、そりゃあ岩なんて粉砕してしまう。というか、人間なんて真っ二つどころがミンチになってしまう。恐ろしすぎる!
ぎゅるぎゅると高速回転するギアがまた迫って来る。地面を破壊しながら、こちらへ。
「――アルム、わたくしはグレイスを守りながら動きます」
「出来る事なら私も守って戴きたいですが……分かりました」
あのアルムでさえ余裕がない。
ブラックゾーン、それほどなの……。
そうして、わたしはグレイスに守られながらボスモンスターと対峙する状況となった。――のだけど……わたしは……。
この『恐怖』を克服しなければ。
戦う。
どんなに追い詰められても……
絶望的でも諦めない。