45.メイドのクリティカルダメージ
鉱山ダンジョンを慎重に進んで行く。
広くて、ランタンのような明かりもあるし、視界良好だから迷っちゃう事はない。
「たまにトラップもあるし……足元には気を付けないと」
「ええ、罠は至る所にありますからね。気をつけて参りましょう」
ネメシスから助言を戴き、足元ばかりを気にしていると、ガンッと鈍い音がした。アルムの鍬攻撃みたいだった。
「アルム……?」
振り返ると、彼女は動物系モンスターのモグモグを相手にしていた。敵は、体当たりしてくる。なかなかの衝撃だ。
「こちらは問題ありません。我が『エンシェント鍬』のソード側の攻撃力はかなり高いですよ」
振り上げる鍬。
刃を一気にモグモグに打ち付けた。
大ダメージというか……
クリティカルダメージを与え続け、モグモグを倒してしまった。
「わ……アルム、凄いクリティカルヒット!」
「えっへん!」
胸を張ってピースするアルムは、可愛かった。
「こちらもオニキスです」
一方でネメシスは、完全回避でモンスターを抱えていた。まったく攻撃が当たっていない。いいなー。わたしもいつかあの回避力が欲しい。
今のところ、自分の回避力では結構、ダメージを受けてしまう。だから、回復ポーションをよく使うし、ヒールもして貰っていた。
わたしも回復魔法欲しい。
「グレイス、ヒールを覚えたそうな顔をしていますね」
「え、なんで分かったの?」
「もう長い付き合いですからね、グレイスの視線は読み取りやすいのですよ」
「そ、そうなの……」
顔に出やすいのかも……気を付けないと。
「ヒールですが、覚えれますよ」
「え……」
「だって、グレイスは聖女ですよ? 癒しの力は習得可能です。だって、わたくしだって聖女ですし」
「あ……そっかぁ」
忘れていたけど、わたし聖女でした。
受付嬢が本業だけどね。
「スキルポイントを振っていないのですね、グレイス。後で聖女のスキルツリーについて詳しく教えるので、ヒールを習得してみてください」
「ありがとうございます、ネメシスさん!」
「ええ、弟子を育てるのが師匠の役目ですから。さあ、グレイス、このオニキスを倒してくださいね」
「了解です」
拳を構え、いつものように敵を倒していく。
狩は順調に進んでいった――。
◆◇ ◆◇ ◆◇
休憩も冒険の基本だとネメシスが口酸っぱく言うので、適当な岩に腰を下ろした。
「グレイス、アルム。少しお腹が空いたでしょう? わたくし、こんな事もあろうかと『レーション』を持参して来ました」
「れーしょん?」
わたしは、ネメシスに聞いた。
「コンバットレーションです。ミリメシとも言いますけどね。これは携帯用食料ですよ。非常食でもありますが、まあ美味しいですよ」
配分されるレーション。
なんだか不思議な形をしていた。
包を開封すると、中には平なお菓子。
これは、スナックブレッド。
どうやら、チーズを付けて食べるみたい。
ふとアルムを見ると、もう既に当然のようにバクバク食べていた。……手慣れてるぅ!
「そ、そか。そうやって食べるんですね」
真似て食べてみた。
すると……。
「味が濃いのですね。美味しい……」
「それはよかったです、グレイス。HPとSPの回復効果がありますし、なにより精神的な回復にも繋がりますから」
レーションを戴きながら、わたしはネメシスに質問した。
「あの、ネメシスさん。聞いていいです?」
「ええ、なんでもお答えしますよ」
耳心地の良い優しい口調でそう言われ――わたしは本来するべき質問を止めた。……また今度にしよう。
「ど、どうしたら……そんなに強くなれるんですか?」
「ふむ」
と、ネメシスは目を閉じた。
「グレイス……強さだけを求めるのですか?」
「うーん。それはちょっと違うかな。もちろん強くなりたいけれど……ネメシスさんのような強くて優しい人になりたいのです」
「…………」
意外な返答だったのか、ネメシスは固まった。そして、顔を赤くした後――背を向けた。
ええー!
「グレイス……それは……、卑怯なのですよ……」
しゃがんでプルプル震える師匠。
……ここまで照れられるなんて思わなかった。




