39.優しい先輩
「はい、このクエストは――」
リーインカーネーションとそれほど大差なく仕事を進めていく。クエスト専門の受付は、青髪の『リーベ』という先輩に見守られながらだったけど、殆ど褒められていた。
「初日なのに凄いね、グレイスちゃん~。完璧すぎて指摘する所もないわさ~」
「い、いえ……」
「さすがフレイヤさんね。こんな有能なコを直ぐ拾って来るとか! ま、そんなワケだから、これからヨロシクね~」
「はいっ」
リーベさんは休憩に入ったみたい。
褒められて嬉しかった。
リーベさんって良い先輩だな~!
リーベ先輩って呼ぼうっと!
わたしは上機嫌ながら受付の仕事を続けていく。
数分後……。
見覚えのあるお客様が顔を出した。
「……え」
「…………やっぱり居たんだ」
この茶髪……確か昨日まで総合窓口を担当していた……。そう、フォーサイト様をデートに誘っていた受付嬢だ。
正しくは元受付嬢。
フレイヤさん曰く、わたしとの一件で辞めてしまったみたい。そんな彼女がどうして……?
「まだ名乗っていなかったわね。私はサージュよ。アンタの所為で辞める羽目になったの……だからね、アンタには責任を取ってもらうわ」
「責任?」
サージュは、いきなりわたしの頬をビンタしようとした。――けれど、わたしは数々の冒険に出ていてレベルが高かったし、余裕で回避できた。
「……!」
「なっ……避けられた!? アンタ、レベルいくつよ……? 受付嬢がそんな動き出来るワケないでしょ……」
「Lv.28ですよ。悪いですか」
「悪いも何も……受付嬢が冒険に? バッカじゃないの……」
蔑んでくるサージュ。
そっか、彼女は一度も冒険に出たことがないんだ。あんなに楽しいのに。
「バカではありませんよ。それに、暴力はいけません。貴女もご存じの通り、ギルドの受付嬢への暴力は認められておりません。ジェネシスの対応マニュアルに則り、反撃も可能です」
「……う」
さすがに頭に入っているようだ。
でも、通常の受付嬢はひ弱。とてもじゃないけれど、反撃なんて出来ない。だから、特殊な道具を使うのだけど、でも、わたしは違う。
「どうかお引き取りを」
「フザけんじゃないわよ……! アンタのせいで、私の人生メチャクチャよ! フォーサイト様にもデートを断れるし! 私はね、たまに顔を覗かせる彼にずっとアタックしていたのよ!? もう少しで貴族入り出来たハズだったのに……くぅ!」
悔しそうに叫ぶサージュ。
そんな理由で……。
少し呆れていると、サージュは懐からそれを取り出した。
「……ま、まさかそれ……」
彼女の掌にある『鉱石』……それは。
「さすが受付嬢ね、グレイス。そう……これは大爆発を起こす『エクサダイト』よ。こんな小さな石ころでもね、このギルドくらい簡単に吹っ飛ばせるわ」
額から汗を垂らして笑うサージュは、今にもエクサダイトを起爆しようとしていた。……うそ、そこまでする!?
「どうせフォーサイト様は手に入らない……だったら、あんたを道連れくらいにしないと割りに合わないわ……! さあ、一緒に逝きましょう……」
彼女の手に力が篭もる。
まず……爆発しちゃう!!