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37.貴族の朝

 重要な事を忘れていた。わたしは、(まくら)が変わると寝れなくなるタイプだった。



「……うぅ、寝不足」



 目線を移すと、わたしの横にはハカダのネメシス。



「――って、ハダカ!?」


「…………」



 気持ちよさそうに寝返りを打つ銀髪の少女。

 こっちはこれからお仕事なのに……もう。


 ……でも、寝顔可愛い。


 師匠(マスター)と言えど、ベッドの上ではただの女の子。無防備ね。



 ちょっと頬を突いてみたり悪戯(いたずら)も考えたけれど、止めておいた。



 寝かせておいてあげよう。



 わたしは起き上がって、寝巻を脱いだ。

 それから純白のブラウスに身を包み――顔を洗ったり仕度を進めた。今日から受付嬢の仕事が始まる。バッチリ決めていこう。



 ◆◇ ◆◇ ◆◇



 アルムがやって来て、元気な挨拶をくれた。


「おはようございます、グレイス」

「おはようございます」


 いつもながらメイド服。

 あれ以外は見たことがない。他にも似合いそうな服とかありそうだけどなー。今度、着させてみようかな。


「ネメシスさんは?」

「わたしの部屋でまだ寝ていますよー。寝かせておいてあげてくださいね」

「一緒の部屋にしたのですね。分かりました。では、こちらへ付いて来て下さい」


 (うなが)され、わたしは付いて行く。



 ◆◇ ◆◇ ◆◇



「お庭?」

「そうです。お庭で朝食を」


 庭まで歩くと、そこには屋外用ガーデンテーブルと椅子があった。完璧なまでのガーデンファニチャーセット。誰かの強い(こだわ)りを感じた。



 庭には、夜空に(あまね)く星々ように広がるお花畑と噴水。この楽園を見ながら朝食とか……。



 フォーサイト様とフレイヤさんの姿はないけど、アルムと二人きりで楽しめるようだ。贅沢すぎるし優雅すぎる……。


 あまりの事態にぼうっと立ち尽くしていると、アルムが椅子を引いた。



「どうぞ」

「あ、ありがとう……」



 初めてで驚くほど緊張した。

 でも、これが貴族の朝なのね。

 な……慣れなきゃ。



「わぁ、良い匂い」



 テーブルの上にはカップ&ソーサー。

 すっごく可愛いデザイン。



 紅茶の香りも上品で、庶民(しょみん)には味わえないだろう感じがヒシヒシと伝わっていた。これだけで……贅沢すぎね。



 あと朝食だろうか、お皿いっぱいに揚げドーナツが置かれていた。凄い量だ。



「これ、いいの?」



 ポカンとしていると、アルムが隣に座った。



「お召し上がりください」

「ありがとう」



 まずは紅茶を手に取った。



「……美味しい。なにこれ、微かな渋みで……後から来る香気(こうき)芳醇(ほうじゅん)ね。これ、なんてお紅茶?」

「帝国製のヌワラエリヤです。グレイスに飲んでみて欲しくて()れてみました」



「こんなに美味しいの初めて……本当にありがとうございます。アルム」



 元気たくさん貰った。

 よし、気合も入ったし頑張ろう。

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