30.アルムの神託
※アルム視点です
私には二人の姉と……帝国最強の兄がいた。
それと大貴族のオラクル家。
とても恵まれた環境にいた。労働とかとは無縁の生活で、あったのは自由。それだけ。あとは何もなくて――でも、ある日、兄は国の騎士として行ってしまった。
それから姉たちも付いて行くように家を出ていき、いつの間にかギルドという制度を広め、冒険者を導く存在になっていた。
姉も兄もみんな凄い。
私だけは何も無かった。
なにも。
姉のエイルから『世間を知れ』と口酸っぱく言われ、初めて外へ連れ出された。
「ここが外……」
「そうだよ、アルム。ていうか、お前なんでメイド服……」
「仲良しのメイドさんが着せてくれたの」
「そっか。まあいい、その方が身分を隠せていいかもしれないしな」
ケケっと悪そうに笑うエイルは、私の手を引っ張って、隣の都【メテンプリコーシス】の中心に位置するギルド【リーインカーネーション】へと連れて行った。
◆◇ ◆◇ ◆◇
「この建物、リーインカーネーションの裏側が新設した『労働基準監督ギルド』だ。と、言ってもやる事といえば、このギルドとか他の職場の監督だ。そこまで多忙ではないはずだよ。だから、空いた時間は『付与師』としての技術を磨くといい」
聞いた事のない単語に私は首を傾げた。
「付与師って?」
「ああ、最近ある聖女が困っていてね。知り合いなんだ」
「聖女?」
私は世間知らずだった。
右も左も分からない程に。
「うん、この世界はな『ザンキ』っていうバケモノに汚染されている。帝国はそれに抗う為に『聖域』を作り、外界の敵から身を守っている。だから、兄上を騎士として迎え、ギルドを広めたのだ」
最近、冒険者が爆発的に増えている理由もそれらしい。つい数年前まで、あっちこっちのダンジョンとか自ら冒険する人なんていなかったと姉・フレイヤは言っていた。
「エイルお姉ちゃん。私は……」
「お前は『神託』のままに従えばいい。それはつまり、心だ」
「心……」
「ああ、アルム。お前はこれから労働に関わる事で素敵な出会いがきっとある。友達だって出来る筈だ」
「友達? って、何?」
「そのうち分かるさ」
姉はまたケケっと笑い、私の頭を撫でた。
くすぐったい。
でも、それが何故かとても良い事だと分かり、私は少しでも兄や姉たちに追いつきたくて、世間の荒波に揉まれてみようと思った。
「お姉ちゃん、私働いてみる。その先に何があるか分からないけれど、きっと自分で見つけ出すんだよね」
「そうだ。答えは自分で探し出すものだ」
またポンポンと頭を。悪い気はしない。
――それから私は、労働基準監督ギルドのマスターとして働くようになった。そして、大切な友達、グレイスと出逢った。
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