03.お昼休憩を抜け出して冒険へ
わたしはすっかり冒険の虜となっていた。
仕事中もウズウズし、あのスライムに与えた感触が忘れられなかった。もう一度、グローブをはめたい、殴りたい。倒したい。
あまりに気持ちが先行して、わたしは昼食を食べることも忘れ……昼休憩時間を抜け出して、草原フィールドへ。
「いきますっ」
今日もお気に入りのグローブをつけて、スライムをボコボコにしまくった。心なしか、通りかかる初心冒険者がドン引きしていたように見えたが、今のわたしにはそんな事すら気にしている暇はなく、ただ夢中になっていた。
「とぅ! ていっ! やぁっ!!」
ただひたすらにバコバコ殴りまくり、スライムを『100体』近くは倒しただろう。ドロップ品もかなり溜まってしまった。没頭して拾っていればアイテム所持限界も近くなり、売却せねばならなかった。
【Lv.2】→【Lv.4】
「ここまでのようですね」
――そして気づけば――
昼の終了を知らせる予鈴が鳴った。
「いけない……もう仕事が!」
なんてこと……わたしとしたことが、狩に熱中するあまり、昼を食べ忘れていた。うわぁ、お腹が減った……。
昼抜きで仕事とか地獄すぎるぅ。
◆◇ ◆◇ ◆◇
ぐぅ~~~とお腹が鳴り続けた。そんな音を聞きつけて来たのだろうか、エイルさんが呆れた顔でやって来た。
「どうした、お腹が悲鳴をあげているぞ」
「……はい、なにも食べて………いませんから」
「おいおい、食べてないって。さすがにそこまで酷使する職場環境ではないはずだ。休憩時間はきっちり取ってもらっているはず。なにがあった」
わたしは最近、冒険に出ていることをエイルに話した。腕を組んで聞きに徹していた上司は納得し、こう言った。
「そうか、受付嬢であるグレイスがな」
険しい顔。
もしかしたら、就業規則に反していた、とか。このままではわたしはクビかもしれない。ああ……やっぱり受付嬢は職に専念するべきだった。
少しだけ後悔。
だが、エイルはニッと笑い――
「分かった。今日は定時で上がってよし」
「……へ」
「なんだ、フェニックスが豆鉄砲を食ったような顔して」
そう、わたしはそんな風にポカンとしていた。
だって、てっきり厳重注意とか……下手をすれば懲戒解雇とか……想像していたし。これは理解して貰えたということだろうか。
「あの、エイルさん。わたし、冒険に出ても?」
「ああ、構わんよ。それ自体にルールはない。受付嬢が冒険に出てはいけないなんて規則もない。それに最近は新人も使えるようになってきたしな。これもお前のおかげだぞ」
「そうだったのですね! よかったぁ……」
ほっとした。
もしこれで咎められるようであれば精神的に落ち込み、もう二度と冒険には出られなかっただろうし。……理解のある良い上司で良かった。
「だが、モンスターには気を付けるのだぞ。知っての通り、フィールドやダンジョンの難易度が上がれば上がるほどモンスターも強くなる。油断をすれば死を招くからな。無理をせず、誰かを誘ってパーティを組むんだ」
「分かりました。助言ありがとうございます! じゃあ、上がりますね」
「お疲れさん。そうそう、明日は休みでいいぞ」
「へ……」
「また、フェニックスが豆鉄砲を食ったような顔して」
いや、そうなるでしょう。
唐突に、そんな数か月に一度あるかないかの……滅多に聞かない言葉を投げられては驚きもする。
「休み?」
「ああ、休みだ。思いっきり冒険を楽しんでこい」
「やったーーーーーー!!」
わたしは飛び跳ねて喜んだ。
これでもっと冒険が出来る!