27.貴族・オラクル家
エイルそっくりさんのエルフは『フレイヤ』という。嘘でしょ……分身がいるんだけど!
見事なまでに瓜二つ。
この近辺最強のボスモンスター・ドッペルゲンガーと言われても信じると思う!
あまりの事態に慌てていると、苦笑いのフォーサイトさんが補足してくれた。
「フレイヤとエイルは双子でね」
「え……」
頷くフレイヤは、赤い瞳でわたしを見た。
「そう、エイルは妹だ……って、本人から何も聞いていなかったのか?」
「は、はい……なにも」
「まったく、エイルは……アイツはああ見えて雑な所があるからな」
溜息をつき、フレイヤは言葉を続けた。
「フォーサイト、この金髪の女の子をウチのギルドに入れたいって?」
「ああ、インペリアルガーディアンであるこの俺が推薦する。……フレイヤ、俺の目が確かなら、この子は凄いぞ」
「――聖域の神託……予知か。……まったく、兄上には敵わんな」
そこでわたしは頭を傾げた。
今、このフレイヤ……『兄上』と?
「あ、あの……フレイヤさん、今……」
「ん、ああ。私が長女で、エイルは次女。アルムは後から生まれた三女。――で、このフォーサイトが一番の兄上ってワケだ」
「え……ええ~~~~~~!!」
思わず叫んだ。
って――ちょっと待って。
……みんな『桃色の髪』だ。
アルムも! そうか、アルムは後から生まれたから、あんまり似ていないんだ。で、しかも、このフォーサイトが兄!? なにそれ……ビックリなんだけど。
愕然としていると――
「フレイヤ」
と、フォーサイトさんは強い目線で訴えた。
ここまでしてくれるとか……泣きそう。
「……うん、兄上のその目は確かだからな。彼女を直ぐに採用とはいかないが、聖域の守護者であるその慧眼には敬意を表さなければならない。とりあえず、面接しよう。明日にでも来てくれ」
「ありがとう、フレイヤ」
……き、決まったの。面接が決まった!?
◆◇ ◆◇ ◆◇
ポカンとしたまま、わたしはジェネシスを出た。……なにこれ、夢? 予想以上にトントン拍子。もっと高い壁とかにブチ当たると想像してたのだけど、まさか面接まで有りつけるとは。これもフォーサイトさんのお陰だ。
「ありがとうございます、フォーサイト……様」
「……ちょ、どうしたグレイス」
「様付けさせて下さい」
わたしは頭を下げた。
すると彼は困った顔をして――でも、笑顔で。
「分かった。じゃ、家へ案内しよう」
「……え、家?」
「そ、住む場所ないよね? それともアテがあるのかい?」
実家はあるにはある。
でも、今はまだ帰るワケにはいかない。
「宿を取ろうと思っていました」
「そうかい。じゃあ『オラクル家』に来るといい」
「オラクル家? ……って、あの貴族の!?」
聞いた事がある。
帝国・サンクチュアリの三大貴族のひとつ。それが『オラクル家』であった。その頂点でもある。凄い……。
――って、あれ。
そうなると元上司とかフレイヤさん、アルムは……貴族ってこと? えぇ……どうして彼女たちは普通に働いてるんだろう。
それはまた訊くとして、今は。
「あの……お世話になります」
「うん、不便はさせないよ。それとなんだが――」
「はい?」
夕焼けの向こうから人影が。
銀髪がゆらゆらと揺れ、青桃のオッドアイがわたしを静かに見据える。……そっか、やっぱり尾行していたんだ。