25.帝国・サンクチュアリ
騎乗モンスター便を使い、三日掛けてわたしは帝国へ。ほのぼのとした旅路を進み――辿り着いた。
もうすぐ帝国。
崖から一望できる街並み。
山々や海に囲まれ、自然豊か。
行き交う行商。いろんな種族たち。
子供のエルフがこちらを不思議そうに見ている。過ぎ去れば吟遊詩人やジプシーの集団。なんて賑やか。冒険者たちを眺めていれば、無事に帝国入り。
料金を支払い、わたしは地に足を着けた。
「――――帰って来た」
【帝国・サンクチュアリ】
巨人のような城門を抜け、広がる大きな建物群。
至る所にギルドやアイテムショップが立ち並ぶ。懐かしくも変わらぬ風景。けれど、あれから数年。新規のお店、潰れてしまったお店もあった。変わらないモノなんてない。わたしのように。
「確か……帝国最大のギルドは……」
名前を思い返していると――
「ジェネシスだ」
通りかかった男がそう答えた。
騎士……? にしては、軽装というか――変わった格好だった。鎧もほとんど付けていないし、剣らしい武器も携えていない。
「えっと……」
「俺はこの帝国のインペリアルガーディアンでね」
ガーディアン!?
ウソでしょ……帝国最強の男と名高い騎士の中の騎士。道理で、凄くカッコイイわけだ。他の男性とは桁違いの容姿。男にあまり興味のないわたしにさえ……ちょっと、ときめくものがあった。
「申し遅れたね。俺は『フォーサイト』だ」
フォーサイトと名乗る青年騎士は、独特な桃色の髪をしていて……優しくも荘厳な感じがした。
「えっと……」
「知ってる。その流れるように美しい金髪はグレイスだろう」
「え……」
名乗ってないのに。
どうして……?
わたしはちょっとだけ警戒する。初対面の筈なのに……う~ん、でも彼は帝国の騎士様だし、そんなヘンな事はないとは思うけれど。
「ああ、すまない。俺の妹がキミと知り合いだって言うから」
「妹さん?」
「アルムって言えば分かるかな」
「ア……アルムさん!? まさか……お兄さん!?」
「ああ、アルムは妹。俺は兄だ。メテンプリコーシスでは世話になったと聞く。それと……色々あったみたいだな。だから、俺がこれからキミを全力で補助する。可愛い妹から頭を下げられて……頼まれてしまってね」
やれやれとフォーサイトは頭を抱えた。
そうだったんだ……アルムが。
わたしは、ちょっとだけジワッと涙が出そうになった。……あれ以来、ほとんど言葉も交わさず、まともな挨拶もせず別れてしまったというのに。こんな薄情なわたしを気にかけてくれていたんだ……。悪い事をしてしまった。
「だ、大丈夫かい?」
「え、ええ。ちょっと嬉しくて」
「まあそんなワケだからさ、グレイス……って、呼び捨てでいいかな」
わたしは頷く。
アルムのお兄さんなら信用していいでしょう。
「これからジェネシスへ案内してあげるよ。それが妹のせめてもの償いらしいからな」
それを聞かされ、わたしはまた……ジワっときた。こんな事なら、もっとアルムともっと向き合って、話をしておけば良かったかもしれない。少し後悔した。
でも、わたしは新生活を始める。
心に決めた以上、前へ進み続ける。
「よろしくお願いします」
「よろしく、グレイス」
騎士・フォーサイトの背後をついていく。
始まる……きっと、以前よりも楽しい受付嬢の仕事が待ち受けている。わたしはそう信じて――。




