22.潜む魔物・ザンキ
残党は逃げ出した。
ファイクは人間ではなく『ザンキ』だった。
「なんなの、ザンキって……」
わたしはひとりつぶやく。
「ザンキは、邪心のようなものです。邪悪な心から発生する闇モンスター。わたくしの父がアレを生み出してしまった……」
「え!?」
「グレイス……。世界は広大で冒険者で溢れていますが、その実、ザンキという視認し辛い魔物に支配されていたのですよ」
「そんな……」
真実を知って少し落ち込む。
受付嬢をずっとのほほんとやっていた自分が恥ずかしい。……どうして気づけなかったんだろう。この世界の闇に。
「仕方ないですよ。ザンキは人間の心に宿るもの。囚われれば、あのように化物となり……最期を迎える。だから、世の中はNPCが多いのですよ。まあ、転生してくる冒険者も多いですけどね」
――と、アルムは淡々と言った。
それが当たり前であるかのように。……いや、それが真実。受け入れなければならない。目を背けたってなにも変わらない。
心に従え、その言葉の意味がやっと分かった。
◆
都【メテンプリコーシス】へ帰還した。
アイテムって便利~♪
とか油断していれば――
ばさぁぁあっと音がして、わたしのスカートがめくれた。
「……え? いやぁぁあ!!」
「ふむ」
「ふむじゃないですよ、ネメシスさん!!」
「グレイスは派手なのが好みなのですね」
「――――っ!!」
「ごめんなさい。元気がなさそうだったので」
「だからって……はぁ」
もう……ネメシス、どんどんセクハラオヤジ化しているし。もぉ、これが職場ならセクハラで訴えてやるのに~。
「では、私は帰ります」
確かにもう深夜の午前二時。
遅すぎて明日に差し支える。
「解散しましょ。じゃあね、アルムさん」
「ばいび~」
と、変な挨拶をしてアルムは去った。
◆
帰宅して、お風呂。
ひとり湯に浸かり、今日の事を振り返った。
いろいろありすぎて整理がつかない。
「ふぅ~…」
ザンキ。
あんな恐ろしい怪物がいたなんて……信じられない。でも、いた。いつから? ずっと昔から? ギルドの受付嬢であるわたしですら知らない情報があるのか。
「…………エイルさんなら何か知ってるのかな。この世界の事とか」
腕を頭に押し当て、そう思いに耽ると、
『ざぶぅぅぅぅぅぅぅぅん!!』
と、お風呂の中からネメシスが全裸で現れた。
……って、なんでそこにいるのおぉぉぉ!!
「きゃあああああっ!!」
「グレイスぅ~♪」
「……ちょ、そ、そこ触らないでよぅ!」
「うふ、うふふふふ……」
「いやああああああっ」
この師匠、セクハラ魔神!!




