21.氷属性の槍
恐ろしいことに、ファイクは人間ではなかった。
「グレイス! それはこの世界を脅かす『慚愧』です。人間ではありません! 最初から貴女狙いだったのですよ!」
大声で説明してくれるネメシスだけど、わたしにはワケが分からなかった。なにそれ、意味わからない。なに『ザンキ』って――。
「いいですか、グレイス! ザンキは人間の心を食べるの者。つまり……浸食タイプの超厄介モンスターです。心を持った貴女は、今や聖女ですから……狙われる立場。多分、もっと前から狙われていたかも」
「そんな……」
「とにかく、そのザンキを倒すのです!」
「倒すって……どうすれば」
ファイクだったものがどんどん姿形を変えてゆく。そして、男は赤黒い影となり――怪物へと変貌を遂げた。
「…………な、なんなのこれ。こんなの聞いてないですよ!」
「今は戦闘に集中しなさい、グレイス! 心を奪われてしまいますよ!!」
「そんな事いきなり言われても……」
『――――グゥゥゥゥ』
まず……ザンキがわたしを恐ろしい目つきで睨む。そして、悪を以てわたしへ接近してきた。もう目の前に……!
「きゃああああっ」
「グレイス!! なにをしているのです!!」
わたしはもう混乱して、戦闘をする気も……。
あれ……。
なんか空を飛んでた。
「大丈夫ですか、グレイス」
「え……ネメシスさん。わたしを見捨てないの?」
「見捨てるワケないでしょう。さあ、立ち上がって。あなたの心は強いから、あの怪物にも打ち勝てる。さあ、見せてあげるのです。聖女の心を」
聖女の心……。
そうだ。わたしは一瞬だけど恐怖に負けそうになっていた。でも……仲間が、ネメシスが支えてくれた。それに答えなきゃ嘘だ。
「行く……!」
「素晴らしい。やはり、あなたは神に愛されている……」
わたしはネメシスから離れ、宙を舞う。
くるくる何十回転もして、地面へ着地。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――ッ!!」
もう恐怖なんかに屈しない。
わたしは弱いわたしを捨て去っていく!!
『奥義!!』
敵の長い腕が迫って来る――!!
けれど!!
『覇王激流拳!!!』
全身全霊でわたしは奥義を向けた。
大魔法・タイダルウェーブのような大きな津波が発生――しかしそれは、一気に凍り始めた。水属性魔法かと思ったけど……違う。
分類はないけれど、氷属性の魔法だ。
これは!
氷の槍……アイスランス!
しかも1本や2本ではない。
3000本は飛び出していった。
それは全部、あのザンキに刺さり――斃した。




