20.諦めない心
「いけませんよ、グレイス」
「え……」
「諦めてはいけない。わたくしは言いましたよね、心に従えと」
「…………」
心。
つい最近までなかったモノ。
「今はただ穏やかに闘志を燃やすのです。怒りに身を任せてはいけない。喜怒哀楽を熟知し、けれども円滑に取り入れ、呼吸に合わせるのです。そして物事を冷静に判断なさい。精神と慧眼は戦闘において重要な役割と果たすのですよ」
「は……はい、師匠」
あまりに真面目な事を言われ、わたしは委縮し……ネメシスをそう呼んでしまった。てか、いきなり先生モードでビックリ。
「今はわたくしが指揮を執りましょう。ですが、何れはグレイスがリーダーです。あなたは『覇王聖女』にならなければいけないのですから――」
そう笑い、ネメシスは走った。
……早いっ! これはダッシュとかそういうレベルではない。飛んでる。まるで空を飛んでいるように跳ねていた。
それからアルムが手を伸ばし、
「ネメシスさん、拳に付与するですよ! 状態異常『毒』、『麻痺』、『混乱』、『睡眠』~!」
一気に四つもネメシスの拳に付与した。
飛んだり跳ねたりを繰り返し、ネメシスは拳を振るった。
「毒の拳! 麻痺の拳! 混乱の拳! 睡眠の拳!」
バンバンと男の鳩尾に決めていき、あっという間に倒していく。なんて速さ。手元が見えない……!
しかもだ。
男たちはネメシスの速度を追えず、完全に圧倒されていた。凄い加速、凄い鮮烈な動き。あれが覇王聖女なの……!
その状況を見守っていると――
「グレイス!!」
――しまった。ファイクが近くに!
「たああああああああッ!!」
わたしは迷わず拳を向けた。
仕方ない……やられなきゃ、やれちゃうもの!!
「っぶねぇ……狂暴な女だぜ。おい、グレイス……まだ気が変わらねえか!」
「……嫌です。絶対に嫌です。あなたなんて好みじゃないですし! この身も心もわたしのモノです。だから……自分で考えて、自分で行動するんです!!」
「んだとおおおおおおお!!」
剣が横から流れてくる。
頭を低くして、回避。ファイクの足を払った。
「……ぐぁっ!?」
コケて無様な体勢になるファイク。
わたしは間髪入れず、奥義を入れた。
『――――――覇王岩礁拳!!!』
思いっきり拳を叩きつけ、彼の鳩尾に入れた。
「ぐあはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
衝撃でボコォっと地面が抉られる。
わたしも穴に落ちていく。
……こ、この奥義……なんて火力なの!
「――――のれええええええええ!!」
なっ……ファイクが気合でわたしに掴みかかろうと……! させない! だったら……!!
『覇王爆炎拳!!!』
更に炎を叩きつけた。
「ぶぉぉぉおぉぉぉえええええええええええええええええええ!!!」
これで……!
「まだだ……俺はまだ諦めねえええええ!!」
なんて諦めの悪い!!
既にファイクの身体はボロボロで、到底立ち上がる事なんて出来るはずがない……。そうか、相手は男。女であるわたしとでは体格差があるから……? いや、そうとも思えないけど! でも!
『覇王天翔拳――――――ッ!!!』
更に加速し、わたしはファイクに奥義を乱発した。今度こそ……きっと!!
「があああああああああああ…………」
ついに白目を剥いて……ファイクは。
「がががががが……ぬああああああああああああ!!」
「うそ……まだ!!」
「ぐぼえべえええばばばばば……あばばばばば!! ケ~ケッケケケケケカカカカカッケケケケケ…………!!」
いきなりファイクの姿が変化した。
こ、これは……!
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