02.定時上がりはいつ!?
全ギルドを管理・統括する【リーインカーネーション】で働くわたし。明日こそ冒険へと期待したけれど、定時はしばらく無かった。
(…………うぅ、全然冒険に出られない)
今日も大量の新規冒険者や中級~上級冒険者とかを抱えまくっていた。もちろん、受付はわたしひとり! 泣きそう!
今日の業務も大量だ。
しかもとんでもない行列を捌いていた。
クエスト情報、ギルド紹介、パーティ紹介、ダンジョン紹介、レイドボス情報、ユニークスキル情報、国の情勢・政治情報……などなど丁寧に、しかし迅速に対応した。
(…………死んでしまう)
いつになったら定時で上がれるのだろうか。
これでは冒険なんてとても……。
絶望していると、女上司がやってきた。
この都【メテンプリコーシス】の中心に位置するギルド【リーインカーネーション】を統括するマスターのエイルさんだった。
独特な耳の形状をしているのでエルフ。
室内だというのに桃色のショートヘアがキラキラと靡いている。相変わらずわたしよりも細身で美しい。スーツ姿が決まっていた。
「今日は上がっていいぞ」
「……え」
上司が赤い瞳でわたしをジッと見つめ、そう言った。今なんと……?
「なにをポカンとしている、グレイス。上がっていいと言った」
マジっすか……。
その言葉を待っていました!
「ありがとうございます、エイルさん!!」
「うお、泣きつくな。……いや、すまなかったな、グレイス。最近はずっと働き詰めだったろう。たまにはな。だから後は、この私に任せな」
「やったー!」
やっと定時上がりが出来た。
――というわけで、わたしは足早に草原フィールドへ向かった!
◆◇ ◆◇ ◆◇
そうそう、自分のステータスを見ていなかった。
改めて確認。
【Name:グレイス】【Lv.1】
【Status】
STR01 AGI01 VIT01
INT01 DEX01 LUK01
【SKill】
[受付嬢の心得] Lv.10(Max)
[打撃] Lv.1
久しぶりに確認すると、こんな感じだった。そういえば、まともに冒険してないからレベルなんて上がっていない。スキルもふたつだけ。
ギルドの受付嬢としての基本スキルと、護身用にと教えられた『打撃』だけ。こうして見ると、ちょっと寂しい感じもする。
「せっかくのチャンスです。さっそくモンスターを倒してみましょう!」
わたしは広大な緑の草原を駆け巡った。
――でも、あれ? モンスターはどうやって倒せばいいのだろう。わたしには武器もないし……そう、武器! 剣とか弓なんてない。
装備も碌になかった。
素手で殴るのも……女の子としてどうだろう。
「あちゃ~…これではスライムも狩れませんよね」
仕方ないのでアイテムショップへ向かい、適当な武器でも買いにいこうと思った――その時。わたしの足元に何かが落ちて来た。
誰かがアイテムを投げて来た?
でも、空から落ちてきたような。
「これは……」
地面を見ると、そこには――
【ITEM:オープンフィンガーグローブ】
とあった。
えっと……。
これはもしかして、モンクとか格闘職の人が使う武器だ。――って、まさかこれを受付嬢であるわたしが手にはめて使えと?
でも、いったい誰が……。
「うーん。ちょっと怪しいですけど、時は金なりです。買いに行くのも時間が惜しいので、ここはありがたく使用させてもらいましょう」
わたしは『オープンフィンガーグローブ』を拾い、手にはめた。――これが驚くほどシックリきた。ぴったりと手に馴染み、革のひんやりした感触が気持ち良くて納得した。これは良いものだ。
全ての指が出ているのでアイテムとか拾いやすい。利便性や通気性あるし、蒸れないのは最高だった。なにより今は『打撃』スキルしかないし、丁度良かった。
「さて、であれば……さっそくスライムを倒してみましょう」
近くにいたスライムに対し、わたしはターゲットを取り、向かって行く。敵モンスターは、ノンアクティブという非行動タイプなので脅威度はかなり低い。初心冒険者向けのモンスターなので狩りやすいのだ。
「――たぁっ!!」
力を篭め、敵のボディに拳を入れた。
ぶよん!
などとユニークな音がして、わたしは身体をバネのように跳ね飛ばされそうになった。……うそ、ダメージが通らない!? 驚く間にもスライムが反応し、反撃を仕掛けてくる。
「まず……」
赤い身体でタックルしてくるスライム。
わたしはそれを何とかギリギリで回避。
「っぶない……なんとか躱しました」
今です。もう一度攻撃を!
「ていやぁっ!!」
ガンとボディに確実なダメージを与えた。
今度は入った!
そして、スライムは塵となって弾け――それほど値打ちもない『赤い宝石』の収集品アイテムをドロップした。確か、10セルで売れるヤツ。
「……やった」
【Lv.1】→【Lv.2】
レベルもアップした。
でも、それよりも……初めてモンスターを倒せたことに感動した。
これが狩り。
これが冒険。
……楽しい!
受付嬢だってモンスターを倒せるんだ。