19.受付嬢の価値
え、なにこれ……。
突然だけど、いきなり襲われた。
モンスターではなく、人間に。
「これって……キラー!?」
「なにを立ち止まっているのですか、グレイス! 動いて!」
語気を強め、険しい表情でネメシスは言った。そうだ、動かなきゃ……あの剣でやられちゃう!
「まさか……殺人ギルド『マニアック騎士団』がいるとは」
アルムは知っていたみたい。
そんな……『殺人ギルド』って……前に会った時、そんな風には見えなかった。でも、彼らは……確かにわたしを襲おうとしたし……。そっか、復讐しに来たんだ。
こっちは、バーバヤガーを討伐しに来ただけなのに。……どうやら、後を付けられていたみたいね。
「女共を殺っちまええええッ!!」「全員、剥いて散々な目に遭わせてやるぜ」「ウヒ、ウヒヒヒ……美女ばっかりじゃねぇか!!」「俺ぁ受付嬢の姉ちゃんがいいなァ」「この前はよくもやってくれたな、クソ聖女がっ!」「おいおい、メイドもいるぞ~。ご奉仕してもらおうか!」
この前より数が多い。
しかも、前よりも武器を揃えている。
剣、弓、槍、槌、杖、そして――――刈込鋏。
刈込鋏!?
わたしは三度見した。
あの木とか切るヤツよね!?
どうしてそんなのを武器にしてるの!! ていうか、アルムといい、変な武器が多いのね。外に出て初めて知った。
接近してくる刈込鋏。
「きゃっ……」
危うく髪を切られるところだった……怖っ。
「グレイスに何てことを……あの金の髪を切ろうとしましたね、あのツルッパゲ! もう許しません!!」
なぜかブチギレたネメシス。
彼女は刈込鋏の人に対し――
『八極拳!!』
ダンっと叩きつけるような音がすると、刈込鋏さんは吹っ飛んで岩に激突していた。
「ぐわっ!!」
す、すご……。
あれ、めっちゃノックバックするんだ。
いいなぁ。
「クソ……この女共、バケモノかよ。強い……強すぎるぜ。こっちとら30人だぞ! 30人も大男がいるっていうのに!!」
リーダーらしき男が発狂していた。
――って、まって……あの顔は見覚えが!!
「あなた……ファイク?」
「よう、グレイス……久しぶりだな」
「そんな……」
あの青髪の騎士は間違いない。
ボスゴーレムに叩き潰されて……死んだんじゃ。
わたしは思わず手で口を塞いだ。
「……驚いているなグレイス。俺はマニアック騎士団のギルドマスターだ。お前をナンパして穏便にギルドに加入させたかったが……お前は断った。だったらと襲おうと思ったが、ボスゴーレムに邪魔されちまった」
「なぜ、生きているの……」
「なぁに簡単さ。俺は最初から『リザレクションの聖書』を持っていた。蘇生と同時に転送アイテムを使い、逃げただけさ」
なんてこと……。
わたしは勘違いをしていたんだ。
「もう一度聞く……グレイス、俺のモノになれ。お前は美しい……その金髪、エメラルドグリーンの瞳。聖母のような優しい顔立ち、その若々しい身体付き……しかも、あの【リーインカーネーション】のギルドの受付嬢ときた。そんな女は十分に価値がある」
ずいっと男たちは寄って来る。
その前にはネメシスが。
「差し上げませんよ、彼女は」
「んだと、てめぇ! 銀髪、お前は俺の部下を散々にしたらしいな」
「ええ、グレイスに酷いことをしようとしたからです。だから制裁を加えたまでですが?」
キッと睨み合う二人。
……このままではいけない。きっとよくない状況になる。わたしはそれは望まない。みんながわたしの為に争うというのなら――。




