17.初の奥義スキル
ウルフはゾンビ化しており、悍ましい姿だった。赤い眼光が暗闇の中で怪しく光る。それから大きな口を開け、鋭い牙が向かってきた。
なんて獰猛なモンスターなの!
わたしは敵に圧倒され、怖気づく。
けれど、モンスターは待ってくれない。一直線に向かってくる獣。やらなければやられるだけ。だから、わたしは恐怖を心の奥底へ出来る限り押し込み、そして[打撃]で敵を殴った。
「ていやぁっ!!」
確かな手応え。
ダメージが入ったけど、一撃ではない。
浅かった。
「グレイス、ゾンビウルフのHPは高いですよ。防御も忘れずに!」
「ありがとう、ネメシスさん!」
アドバイスを貰い、防御も意識する。
そうして再び向かってくるゾンビウルフ。わたしは腕をクロスさせて固く防御し、それを振り払い――迅速に後退。
入れ替わるようにしてアルムが前線へ。
鍬を持って突撃した。
「鍬に毒を付与します」
冷静にスキルを発動し、本当に『毒』を付与していた。紫色のオーラのようなモノがポンと出て、鍬を包み込む。
それから、アルムは川の流れのように鍬を振るい、ゾンビウルフの胴体に命中させた。ドンと激しい音と共に『毒』がヒット。
『ギャゥッ!!』
モンスターは毒に悶え、HPをジワジワ削り取られていった。……すごい、あれが付与師の戦闘スタイル。わたしも負けていられないな。
いつの間にか背後に集まってきた複数のゾンビウルフ。綺麗なフォーメーションを組み、容赦なく向かってくる。それに対し、わたしは[打撃]から繋ぎ、初の奥義スキルを放った。
『――――――覇王爆炎拳ッ!!!』
拳から紅蓮の炎が飛び出て――周囲を激しく燃やした。ごうごうと広がる血のような炎。ゾンビウルフ達を燃やし、焦がした。
ていうか、これ『Lv.1』なのにスゴイ威力!
火力に驚いた。奥義がこれ程とは。けれど、消費SPも多いから高頻度で使用できるものではない。乱発すれば直ぐにSPは枯渇するだろう。
でも今は感動に打ち震えていた。
「……すごい」
「グレイス、それが奥義です。スキルレベルこそまだ未熟ですが、鍛錬を積めばきっと極められるでしょう。それから覚醒の解放を目指せばきっとわたくしを超え、最強になる」
「Lv.1でも凄いのに……!」
驚いた。以前にネメシスの技を見た時も凄いと思ったけど、自分が使うと改めてその強さを思い知った。これが聖女の力……。でも、まだまだ上を目指せるんだ。
「もう一度言いますが、まだ初期段階です。真の力は[覚醒]を得たその時。――っと、グレイス! 上からゾンビウルフが飛び跳ねて来ましたよ。わたくしにお任せを」
気づくとゾンビウルフが空から降って来た。どうやら飛び跳ねて来たらしいのだけど、なんて跳躍力なの……バケモノめ!
でも、ネメシスはまったく怯まず果敢に向かって行き――そのまま捨て身タックルするかのように向かって行った。えぇ!?
「りゃあああああッ!」
まさかのゾンビウルフの顔面を鷲掴み……群れの方角へ物凄い勢いで投球、ポイ捨てした。
……はい!?
飛んでいくゾンビウルフは、群れへ激突。巻き込み、倒してしまった。……いやぁ……ありえない。豪快すぎるでしょ。
「グレイス。わたくしの顔に何か付いていますか?」
ネメシスは、息をひとつも乱さず、あの長い銀髪を華麗にかきあげた。……カッコよすぎ。どうしたら、そんな風になれるのだろう。
でも、いつかきっと……
ネメシスのようになりたい。
彼女のような強い女性に。
がんばろう。
【RESULT】
EXP:5588
DROP:狼の腐った毛×4