14.世界で唯一の武器
「――ふむ、亡霊討伐クエストですか」
面白そうだと笑い、ネメシスは頷く。
なんか嫌な予感のする顔だなぁ。
「わたしは『リザレクションの聖書』が欲しくて……」
「いいでしょう。この付与師のアルムもいれば問題ありません。彼女は属性付与をメインとしていますが、他にも色々出来るんですよ」
「他にも?」
わたしは、アルムの横顔を覗いた。
「火、水、風、地、光、闇の六属性は基本です。さらに『バーサーク』状態の付与もできます。あとは毒とか麻痺など状態異常を直接付与したり」
……なるほど、付与師って面白い。
でも戦闘はあんまり出来ないのかな。
「グレイスさん、その顔、付与師は戦闘に不向きと思いましたね?」
「え……はい」
「そうでもないのですよ。武器はこれです」
――アルムは、なんか変わった形の農具? を取り出した。どこから出したの~!?
「な、なんですそれ」
「これは、精錬とかで使われる万能鉱石・エクサニウムを使用した『ソード付超改良型鍬』です」
鍬って……やっぱりあの土工農具の。
畑とかで使うヤツよね……変わりすぎでしょう。
その武器は、鍬の形状。
刃の部分、鍬平はそのままだけど……『風呂』と呼ばれる部分。人間でいう踵の位置する部位に――かなりイカした『剣』が付いていた。な~んで、わたし、鍬なんかに詳しいのだろう。……ちょっとだけ複雑。
「それ……デザインも凄いですね」
「これは、私専用の特注武器ですから、世界で唯一のウェポンですよ」
「すご……」
ていうか、メイドさんが鍬持って戦うって……すごい光景かも。それはそれで見てみたい気もする。
ぼうっとその武器を眺めていると、上司がネメシスに話しかけていた。
「グレイスを連れていくのか」
「いえ、全てを決めるのは彼女。グレイスの御心のままに――ですから、わたくしは付いて行くだけ」
「そうか。まあ、無理のないようにな。明日は他の受付嬢に総合窓口を任せる。グレイス、今夜はクエストへ向かうといい」
そういきなり話を振られ、わたしはビックリしてしまった。
「え……」
「なんだ、フェニックスが豆鉄砲を食ったような顔して」
またそれー!!
「だって……明日もお仕事……」
「ほらあれだ。一応、労働基準監督ギルドのアルムがいるからな。丁度いいだろう、ウチがきちんと従業員に有給を取らせているところを見せておく。これで、連中も少しは大人しくなるだろうからな」
筋が通っているような、なんかちょっぴり複雑なような。……でも、有給が取れる! つまり、お休み。冒険に出られる!
「ありがとうございます、エイルさん」
「構わんさ。じゃ、残りも頑張るんだぞ」
そう言って、エイルは去った。
「では、あと数時間もすれば日が沈むでしょうし、グレイスの退勤時間もぼちぼちでしょう? なら、わたくしはこのアルムと共に街へ行ってきます。今の内にアイテムを買い込んでおこうかと」
「本当ですか……! 楽しみだなぁ~」
ネメシスは微笑んで、アルムと共にリーインカーネーションを去った。……やった! 今夜は冒険に行ける~! めちゃくちゃ嬉しい~!




