12.亡霊討伐クエスト
今日も職場へ向かった。
いつもと変わらない日々かと思ったけど、すっかり変わってしまった。
まず、自分に心が宿った。
以前とそれほど変化はないかもしれないけど、確実に『聖女』としての自覚があった。なんか身体とか軽いし、寝つきも良くなったような。
あと、ネメシスが付いてくるようになった。
「リーインカーネーションへ来ても退屈かと」
「いいえ、グレイスの居る場所に退屈などありえません。それに、またいつ男性に言い寄られるとも限りませんから」
ネメシスは過保護だなぁとか思いつつ歩いて行くと、職場に辿り着いた。中へ入る前にネメシスにひとつ聞いた。
「ねえ、ネメシスさん」
「はい」
「わたしって聖女になったのですよね」
「そうですよ、今は紛れもない聖女。でも、まだ始まったばかりです。これからの未来は分からない……グレイス次第なのですよ」
そう彼女は、わたしを青桃の瞳で見据える。
わたし……次第。
ネメシスは言葉を続ける。
「……お仕事がんばってください。今日は見学させてもらいますね」
「ありがとう。行ってきます」
◆◇ ◆◇ ◆◇
今日は『クエスト報告』が主な業務だった。
なので、それほど多忙でもなく、むしろいつもよりも気楽だった。バンバン処理し、冒険者に報酬を手渡したり、新たなクエストを紹介したり――。
ある書類が目に入った。
(あれ……このクエストって……)
★★★ ★★★ ★★★
【クエスト】亡霊討伐
【推奨レベル】Lv.40
【エリア】山脈
【ダンジョン】なし
【ゾーン】レッド
【内容】
キングス山脈の麓を荒らす亡霊を排除。
亡霊モンスター[バーバヤガー]を倒せ。
モンスター討伐数[30]体。
【クエスト報酬】
200,000セル、ゴールドポーション×2個。
リザレクションの聖書。
★★★ ★★★ ★★★
この『リザレクションの聖書』って……もしかして、蘇生スキルを使えるアイテムよね。だとしたら、これは手に入れておきたい。
あのゴーレムの一件以来、わたしは蘇生アイテムは持っていた方がいいなって思っていた。しかもこの『リザレクションの聖書』というのは、死亡時の自動蘇生の効果付き。万能アイテムなのだ。
これは是非手に入れたい好条件のクエスト。
そのクエストをじっと見つめていると――
「なんだ、グレイス。ぼさっとして……ん? なんだその書類……ほう。『亡霊討伐クエスト』か。なるほど~、それが気になるわけか」
「エイルさん。お疲れ様です。……ご、ごめんなさい。業務中でしたよね……」
「しょんぼりする必要はないぞ。ちょうど休憩を伝えに来たところだからな。だから問題はない」
時計を見ると、確かに休憩時間だった。
……良かったぁ。
そして、エイルは腕を組みニッと悪そうに笑う。
なんだろう、あの表情。ちょっと怖い。
「そのクエストを受けたいか」
「え……」
「実はそれ、誰も受けたがらないんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ……そのモンスターが厄介でね」
「バーバヤガー」
「そ。そのバーバヤガー。闇かと思えば、念属性を持つモンスターなんだよ」
「念属性って……」
わたしは気づいた。
それは誰も受けたがらない。
「気づいたか。念属性モンスターに物理ダメージは通らないからな。しかも相手は『念属性★★』だ。この星は五段階あって、五個が一番強い。けど、こいつは★★だ。それほどではないが、物理ダメージはまず命中しない」
「そんなぁ……」
「でも、付与師がいればあるいは――」
チラッとエイルは、外を見た。
外~?
そこには――。