01.毎日のお仕事
世界は常にたくさんの冒険者で溢れている。どこからやって来るのか分からないけれど、みんな冒険を求めてやってくる。今日もわたしは、そんな意気揚々とした冒険者たちを迎え、導いていた。
「こんにちは。わたしは総合窓口を担当していますグレイスです。えっと……剣士さんですね。では、こちらのクエストは――」
総合窓口とはいえ、実質ここしか担当がなかった。だから、おつかいクエストを薦めたり、ダンジョン情報を報告したり、ギルドや臨時パーティを紹介したり、レアアイテムの出現場所を教えたり……仕事は山ほどあった。
次から次へとやってくる冒険者を順次対応し、そんな風に仕事を熱心に熟していけば――もう、定時。夕方になっていた。
忙しい日が終わった。
「……ふぅ。今日も一仕事したなぁ~」
こんな忙しい毎日。
今日の残業は奇跡的になかったけれど、いつも基本的にはある。今月だってもう何十時間と余分に働いていた。疲労困憊だった。
毎日毎日。
笑顔を絶やさず働き詰める。
――でもいい。受付嬢がわたしの使命なのだから。みんなを導く存在だから、苦痛になんて思ったことは一度も……ないとは言えないかなぁ~。間違っても口には出来ないケド。
せめて、残業がなければね。
ていうか……ほとんどを任されている状況なのもどうかと思うけど。他のギルド受付嬢はまだ新人さんばかりだし。責任重大だけれど、一番長く働いている自分が頑張るしかなかった。
「ウチの会社、ブラックなのかな〜? ほんのちょっとだけ転職を考えちゃうかも。でも、お給料だけは良いからな~」
ちゃんと残業代も出るし、有給消化も義務化されていた。だから、むしろホワイトな環境だと思う。そういう所はキチっとしていた。どうやら【労働基準監督ギルド】が五月蠅いらしい。
……はぁ、と溜息を吐いてもそれは虚しく夕焼けへ消えていくだけだった。
……ああ、空が血のように赤い。
と、わたしは帰路に就き……
トボトボと歩いていた。
すると今日対応した冒険者とすれ違った。
「やあ、受付のお姉さん! お疲れ様!」
元気に挨拶してきたのは剣士の少年だった。
この若さにして白髪。でもどうやら地毛のようだった。少年の名前はルトくんだったかな。小柄で、可愛らしい子だった。
クリっとした赤い目も可愛い。
「お疲れ様。ルトくんよね。これから狩りへ?」
「そうです。薦めてもらったお使いクエストが終わったので、これから草原フィールドへ行くんです。どんどんレベルを上げて、もっといろんなダンジョンとか攻略してみたいんです!」
ルトはそんな風に明るく元気に言った。
「冒険かあ、楽しそう」
でも、わたしは冒険者を導く立場。
そうやって羨ましいと思うしかなかったけど……そんな時、ルトはやっぱり笑顔でこう言った。
「受付のお姉さんも冒険に出てみたら?」
――え。
わたしが冒険に?
そんなこと……
一度も考えたこと無かった。
「……そっか。受付嬢だからって冒険に出ちゃダメってことはないものね。ちょっと考えて見ようかなと思います」
「うん。お姉さんっていろんな情報とか詳しいでしょ。攻略とかも簡単なんじゃないかな! モンスターとかダンジョンの事、なんでも知ってるんでしょ!」
少年は純粋な目でわたしを見た。
……なんて的を得たことを。
そうだ。
わたしは歩く情報源。そこらにいる冒険者よりも情報通なのだ。あの総合窓口をひとりで担っているわたしにしかない情報を活かせば……もしかして。
「ありがとう、ルトくん!」
「お姉さんこそ、がんばってね! じゃあ!」
爽やかな笑顔でルトは去った。
良い子だ~。
……よし、明日の帰りにでも冒険へ出てみよう。
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