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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 2章 投げ捨てることだって、簡単では無かったけれど
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10話 一人ぼっちという贅沢

 突発!人間あるあるー。


「俺、心を入れ替えたから」


 とかわざわざ言うやつ、記憶無くしてんのかってくらい進歩しない。このタイプは女子に手を出し迷惑行為を働くやつであったり、あるいはパワハラセクハラ気質のあるやつだったり、変わりたい願望が強いやつに多く見られる。


 知ってるか? 変わりたいやつほど、変われないんだ。わりとこの世はそういうふうにできている。変わるやつってのは、無自覚にどんどん自分を適応させ、変化するからだ。


 変わりたいとか思っちゃってる時点で出遅れてる……ってコト?


 てなわけで。

 特に変わらないわけである。表面だけかじったようなモノマネしても小さくて可愛くはならないんだな。これが。


 ベッドの上に転がって、スマホを光の速さでタップする。唐突にやりたくなったタップゲー。三十分後にはアンインストールする未来が見えるぜ。

 ぐでんごろごろぐでんごろ。効果音をつけるならそんな感じで、それ以上の情報もない。虚無に時間を溶かすの最高っ!


 精神的に負荷がかかることをしたので、今日は七瀬さんの授業はお休み。大人しく引きこもらせてもらっている。


 ……ま、思ったより元気なんだけどね。


 ちょっと前までなら、ぶっ倒れて一日くらい寝込んでいた気がするけれど。

 タフになったのだろうか。


 あるいは――心を守るものができたのか。


 ベッドから起き上がって、長袖のジャージを羽織る。

 十一時のリビングに、今日は誰もいない。冷蔵庫を開けて冷やしておいた缶サイダーを持って、外に出る。


 庭のベンチでお洒落な楽しみ方ができると、この間知ってから試したかったのだ。リビングの明かりをつけていれば、それほど暗くもならないし。


 プルタブを起こす。炭酸の抜ける音。結露した水分が指について、ジャージの裾でぬぐう。

 一口飲むと、鼻を抜ける涼しい香り。


 贅沢だなと思った。

 一人になりたいタイミングを選べる、この生き方は、贅沢だと思った。


 ぜんぶ説明しなくても、配慮してくれる優しさはほとんど奇跡だ。


 350ミリリットルの缶はすぐに空になって、僅かに残ったのが底の方でチャプチャプ揺れる。


 さて。明日からどうしたもんかね。


 とりあえず、宮野が古河とデート(?)がどうなるか。マジで俺の管轄外ではあるけど、気にならないと言えば嘘になる。誘うこと自体は成功したらしい。失敗したらビビり散らすわ。

 宮野は「トム先輩のおかげだ! 恩に着る!」と言っていたが、そんなことで恩を感じないでほしい。申し訳なくて謝っちゃいそうだよ俺は。


 あとは、七瀬さんの受験か。そろそろ中学生は部活が終わって、受験に力を入れ始める季節だ。周りが勉強を開始すれば、おのずと平均点も上昇する。順位。という部分に成長が見出しづらくなるのだ。その辺のことは、頭のいいあの子ならわかっていそうだけど。いちおう、俺も忘れないでおこう。


 古河は……明日のご飯はなんだろな。


 マヤさん。マヤさん。……マヤさんねえ。マヤさんは、マヤさんだよ。


 なんだろうな。やっぱりあの人だけは、どうも距離感が掴みきれないというか。

 仲はいい。非常にいい。ゲーム友達。心置きなく煽り合える、最高に楽しい相手だ。


 だけど俺は、マヤさんのことをどれだけ知っているだろう? そうやって考えると、ほとんどなにも知らない。と答えるしかない。


 他の三人にしたって、なんでも知っている、なんて言うつもりはないけれど。

 なんにも知らないわけじゃない。


 知りたいか? そう問われれば、それすらも怪しいっちゃ怪しい。なんだそれ。自分で考えてもわけがわからん。

 堂々巡りだ。巡り巡って、わからない。という結論をはじき出す。

 人間の脳がスーパーコンピューター以上って、あれ嘘だよな。コンピューターなら異常なエラーだ。


 ただ。

 あの人を見ていると、ふとした瞬間に感じるものがある。


 自ら輪の外側に立って、内側を見守っている。その姿を見ると。

 姿鏡を見ているような気分になるのだ。


 錯覚であればいいと思う。

 思うだけなら、無料だから。

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― 新着の感想 ―
[一言] マヤさんねえ。まあ、やはり立ち位置は特別なのかもしれない。そしてやっぱり、一歩引いているのかな。店子の入れ替わりは、もう色々と経験しているのだろうか。だとしたら、ずっとこのままという未来はな…
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