4話 天敵襲来……かも
土曜の夜。街は混み合って、雑踏に呑み込まれそうになる。
視線を彷徨わせて、目的の人物を探す。コントローラー非所持のIQなので、実は二人の顔もあやふやだったりする。
一度会っただけで顔を覚えられるような機能は、俺には搭載されてない。ゲームとか映画でもけっこう、名前と顔を忘れて「誰この人?」みたいになることが多い。クライマックスでなりがち。最悪。
服装でも聞いとけばよかったかと思いつつ、捜索を継続。
「はろートムくん」
「曲者」
背後から声を掛けられて、咄嗟に身構える。
「曲者て。いつの時代の人なの君は」
前回とは違って、髪を下ろした姿の利香さんがいた。
「ポニーテールじゃないから気がつかなかった……」
「君は女子をなにで判断してるのかな!?」
「あ、や、ごめん。だってほら、だいぶ印象違ったから」
ずいっと近づいてくる利香さんに、両手を前に出してどうどう。俺は美味しくないぞ。OK?
「トムくんは、この間とどっちが好き?」
「どっちでもいい」
「君あれだよね。女子にモテないよね」
「いい意味で?」
「いい意味ってなに」
「さあ」
肩をすくめて口を曲げてみせる。
つまらなそうにした利香さんは、ふいっと視線を逸らす。特大のバツ印をもらった気がする。あと何点削れば赤点だろう。
「彼女いたことあるの?」
「ご想像にお任せします」
「なら、あるに一票入れちゃおっと」
「正解は人生の後で」
「死後!?」
闇に葬るべき事もあるよね。ま、無いんだけど。
「田代は?」
「もう来るって」
ほら、あれ。と利香さんが指さす。十時の方角。イケメンの気配。
人混みの中でもわかる、体格のいい金髪。たとえば宮野のイケメンさを春風とたとえるなら、こっちは夏の風だ。湘南あたりで暴風を吹かせ、男女の過ちを燃え上がらせるタイプの。
「や、待たせた」
「主役は遅れてくるものなんだってな」
「真広クン。その皮肉、冴えすぎ」
ということで奇妙な三人、集結。
◇
大学生というのは、なにはともあれ駄弁るものだ。と思う。知らんけど。俺の認識ではそうだ。
ラーメン屋の一角には常に二十代ぐらいのグループがいるし、なにバックスコーヒーとは言わないけどあの辺は顕著である。外でなくても互いの家に集まるし、会わなくたって電話で駄弁る。
そういう意味では、この行為は非常に大学生らしいと言えた。
俺が呼ばれた。というのがだいぶ謎ではあるが。謎、というか地雷の香りというか。まあストレートに表現すれば嫌な予感がする。
……リカさんに狙われてたりするのか? 俺。いや、うーん。自意識過剰? わからん。可能性としてはあり得るだろうが、現実問題はどうも読み取れない。女子の表情って本当に難しい。
イタリアンのファミレスに入って、席に着く。田代が奥で俺が通路側。正面にリカさん。
前回みたいな雰囲気の店ではないらしい。こっちの方が経済的に助かる。というのが全員の共通認識なのだろう。
適当に注文して、顔を突き合わせる。
グラスの氷をストローで鳴らしながら、リカさんが切り出す。
「で、玄斗。なにこの呼び出しは」
「ん? 真広クンを知ろうの会」
まさかの学会。
戸村真広大全でも発売するつもりか?
創刊号の付録はすごいぞ。猫耳カチューシャがついてくる。買ってくれた女の子は是非着けていただきたい。男は失せな。
というかなんだそれ。急に緊張してきた。
「あばばばば」
「トムくん、めちゃくちゃ混乱してるけど」
「ダウト。ふざけてるだけ。目が落ち着いている」
「…………っ」
俺を見つめる目は余裕と確信に満ちていて、底まで見通されたような気分になる。
「でしょ」
「まあ。さすがに」
この間はちょっとしか話さなかったが、これはまじで。俺の苦手なやつらしい。
「じゃあ私がここにいる意味はなんですかー」
リカさんの問いに、答えを出したのは俺だった。苦笑いと共に。
「……仲裁とか?」