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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 2章 投げ捨てることだって、簡単では無かったけれど
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3話 なんだったんだろう。

「プラネタリウムに行きましょう」


 開口一番の勢いに、どこか宮野のようなものを感じたが、隣にいるのは七瀬さん。

 古河から頼まれた買い出しの途中。決定事項のようにツインテールの少女は言った。


「なるほど?」


 困惑を隠せない俺。


「先輩はプラネタりたくないんですか?」

「プラネタるってなに?」


「室内で星を見ることです」

「プラネタリウムに行くことだね」


 それ以外の意味がなさそうでびっくりした。

 あんまり驚いたもんだから、夕飯の買い出し。絹豆腐か木綿豆腐か忘れたな。両方買って帰ろう。スマホのメモには豆腐としか書いていない。


「というか、なんでまた急に?」


 てくてくと歩いていた少女の足が、ピキッと硬直する。容量不足のパソコンみたいにフリーズして、五秒ほどで動き出す。


「ほ、ほら、私。星座の分野が苦手じゃないですか」

「そうだね。苦手じゃないね」


「違いますよ苦手なんです! 言葉で遊ばないでください!」


 心の声、全滅!


「苦手だっけ。確認テストはいい出来だったけど……」


「覚えてるんですか?」

「うんまあ、だいたいね。理科の苦手範囲は化学式と物体の運動くらいで、あとはまだやってないか問題なかったはず」


「社会は?」

「都道府県の分野で、雨温図を読み取るのがちょっと苦手だったよね。あとは時差の計算がまだ演習できてないかな」


「数学……」

「球の体積と表面積の公式をたまに忘れるよね。あとは分数の計算で、約分を忘れがち。因数分解はスムーズにいけそうだから、二次方程式もなんとかなりそうだと思ってるよ」


「え、英語は」

「過去形の変化を頑張って覚えてほしいかな。特に子音字+yのパターン。単語を覚えるペースは今のままで十分」


「こくご……」

「いい感じじゃない? 得意そうだし、俺から言うことは現状ないよ」


「な、なんでそんなに完璧に覚えてるんですか!?」

「なんで覚えてるんだろう……」


「私に聞かれても」


 腕組みをして、少し考えてみる。答えは別に難しいことではなかった。


「教える相手が一人だからじゃないかな。五、六人持ってたときに比べればね」

「そうですか」


「ん?」

「一〇点くらいです」


「なにが?」


 俺の知らないうちになにかを採点されていただろうか。身だしなみ? まさか。こんなに普通のジーパンとTシャツなのに。

 いや待て冷静になれ。一〇〇点中一〇点。十分じゃないか? 一割だろ? むしろナイスファイトだろ。自分を称えていこう。


「なんでちょっと嬉しそうなんですか」

「一〇点取ったなぁって」


「?」


 マジで意味不明なものを見つめる女子中学生の目、けっこうあれですよね。……あれですよね。女の子のいるお父さん方とかにはわかってもらえると思います。


「と、とにかく! 行きましょうってば!」

「他の人は?」


「あの家で先輩以外に星が好きそうな人、いますか?」

「うーん」


 たとえばマヤさん。「真広、星よ星! バーベキューしましょ水希! お酒持ってくるわっはっはっは!」

 たとえば古河。「月見団子が食べたいねえ」

 たとえば宮野。「星はいいな! うん。星、いい!」


「……確かに」


 なんだろう。みんな思い思いに楽しみそうなんだけど、こう、ベクトルが違うような気がする。脳内再現度はマジで高いと思う。特に宮野。百パーセントだろ。


「じゃあ行こっか」

「はい! 次の日曜日でどうですか?」


「日曜……土曜の次が日曜日だったよね」

「もしかして先輩。暇すぎて曜日を忘れちゃったんですか?」


「まだセカンドライフも始まってないのにね。あはは」

「笑い事じゃないですよっ」


 ちょっと怒られちゃったよね。


「大丈夫だ。問題ない」

「朝からでもいいですか?」


「うん。ちょっと遠かったもんね」


 田代たちとの集いは、早めに上がらせてもらうとしよう。事情の説明は、健康的な生活を送るため。とかでいいだろう。ギリギリ嘘じゃないはずだ。

 満足げに頷く七瀬さんを見て、そういえばと思い出す。


「せっかくのお休みだし、ついでに甘いものでも食べようか」

「はいっ!」


 飛び跳ねるような声で、一〇〇点満点の笑顔。本当に七瀬さんは、いい点を取るのが上手い。


 頑張り屋な生徒には、ご褒美が必要だって気がしてたんだ。

 ついでに糖分摂取しようとする俺は悪い大人。


 そういえば、星座の分野が苦手と言っていたあれはなんだったんだろう。

 ……なんだったんだろう。

 あとで確認テストでもしてみるか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 七瀬さんが可愛い みんなの性格がよくわかるセリフでしたw [気になる点] 田代達との集いは金曜の夜で、七瀬さんは日曜の朝なのに、どうして早く上がらせてもらうんでしょうか?
[一言] 4人とも、セリフの書き分けがはっきりできるよねえ。誰のセリフか迷ったりすることない。キャラ付けがはっきりしているんだなあ。 七瀬さん、がんばった。良いご褒美になるといいけど、まあそれは前日…
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