表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 2章 投げ捨てることだって、簡単では無かったけれど
85/173

2話 社交辞令かと思うじゃん?

 マヤさんの休みが確定するのはもう少し先なので、詳しいことはまだ決められない。が、だいたい行きたい場所は絞れたのでよしとしよう。自室のガラスに向かって現場猫。


 パソコンを閉じて、おもむろに大学の教科書を取り出す。床にあぐらをかいて、次回授業の予習を少し……重いな。教科書、アホみたいに重い。

 大学の教科書ってなんでこんなでかいんだろ。モンハ〇完全攻略ブックとかと同じかそれ以上の重量がある。おかしい。青チャートとかはこうじゃなかった。


 仕方がないので、教科書は床。半ば寝そべるような格好でお勉強の再開。

 中間テストをやってわかったよ、俺。日々の積み重ねが大事なんだって。


 パラパラとめくって、ふむふむとわかったような首の上下運動。実際の理解度は聞かないのが武士の情け。


 相変わらずこの部屋に机は無い。一階のを使えばいいかとなってしまうので。


「さて。ゲームやるか」


 体感一時間くらいやったし。いいよね? 分針が動いてない? そりゃあ一時間やったからさ。時針が動いてない? 壊れてるんでしょ、時計が。

 完璧な理論で武装してコントローラーを握る。急上昇するIQ。


 データロードに成功したのとほとんど同時に、スマホが鳴った。


「――!」


 ビクッとして少し距離を取って、恐る恐る手に持つ。アイアムデジタル原始人。着信音というものにどうも慣れない。


 名前を確認すると、脳内に乱舞する『?』。昔やってた脳内メーカーで表現すると、ゲーム遊びエロ勉強が丸ごと飲み込まれて百パーセント『?』になったくらい。説明下手か?


 通話ボタンを押して、耳元に近づける。


「お、おおう……おうおう」

『もしもし。真広くんだよな?』


「OH……」


 マジで合コンマスターじゃん。田代玄斗。この間、というか土曜日に会ったばかりのマッチョなイケメンである。宮野に勝るとも劣らない爽やかスマイルが脳内に浮かび上がる。思い出の中でじっとしていてくれ……。


『今ちょっと時間大丈夫かい?』

「いいが。用件は?」


 やばいさっぱり思いつかない。こいつが俺に連絡してくる理由。強いて言えば古河か? 古河と会わせろってか? そういえば、古河とは連絡先交換してなかったよな。

 だとすれば俺を伝書鳩にする可能性は大いにある……。


『ほら、遊ぼうぜって言ったじゃん』

「誰と?」


『真広くんと、俺が。遊ぼうぜって』

「なるほどなぁ。ちょっと真広くん呼んでくるわ」


 さあてこの家にそんなやついたっけなあ。って、


「俺じゃん」

『君だよ』


「わお」

『リカも加えて三人。どうよ?』


「…………」


 早い早い。展開が早い。ちょっと待てなんだこれ。なぜ俺は田代と話して、リカさんもいる状況で三人で遊びそうになってるんだ?

 助けてふるか……が、あの優男と会わせるのはなんかやだ。シンプルに嫌だ。


「日にちと時間を教えてくれ」

『おっ。じゃあ土曜日の夜七時とかどう?』


「了解。場所は?」

『後で連絡する』


「おっけー」


 なんか決まっちゃったし。仕方ないか。……仕方ない。

 そんな内面を、というかここまで表に出せば伝わるか。田代は察して、尋ねてくる。


『もしかしてさ、嫌だった?』

「慣れないことは苦手なんだ。悪い。でも、行ってみたいと思うのも嘘じゃないから。……楽しみにしとく」


 楽しみにしとくと。口にしてから気がついた。その感情は嘘ではない。

 警戒心のほうが強いことは確かだが、その岩盤のように固い感情の下には眠っているのだ。誰かと、同性のやつと遊ぶ、去年までは当たり前だったことへの懐かしさや憧れが。


『そっか。じゃ、土曜日』


 適当に言葉を交わして、電話を切る。スマホを投げる。大きめにため息。

 深呼吸して天井を見て、言い聞かせるように呟く。


「一歩ずつ」







 七瀬柚子は最近、ちょっとむずむずしている。

 というかちょっとイライラしていた。イライラ。という言い方は正確ではないかもしれない。ただなんとも言えない不快感というか、不満というか、そういうものを抱えていた。


 その正体に気がついたのは、真広から「金曜日の授業、ちょっと早い時間にしてもらっていいかな?」と相談されたときだ。


 頭の中にいるもう一人の自分が「ちょっと先輩、最近遊びが増えてないですか?」と呟く。連鎖する。ポンポンとポップコーンのように思考が広がって、あっという間に頭がいっぱいになる。


 水希とも二人でドライブしているし、悠奈とはよくゲームしているし、マヤとも酒飲み仲間になっている。


(私だけ……先輩と遊べてない!)


「むぐぐぐっ……」


 考えていたらちょっと恥ずかしくて、けれど同じくらい不満も膨張していく。


(私と遊びたいって言ったのは先輩なのになんで誘ってくれないんですか!!)


 激怒である。逆ギレとも言う。

 だが、彼女の怒りはそんなに長く続かない。しかめっ面は次第に冷静さを取り戻し、次第に口元が緩んでいく。

 内心の大乱闘を繰り返し、思春期の女子独特の(七瀬柚子特製の)思考回路を通してたどり着いた結論。


(先輩は意気地無しだからしょうがないですほんと私から誘ってあげないとなんにもできないんですからほんとそういうのじゃなくてほんとっ!)


 いつも通り。

 ということで、柚子。動く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本気で誘いに来た。確かに、シェアハウス入ってから、付き合うの女の子ばかりになっていたのだなあ。 合コンマスターと、お茶漬け海苔君と、どちらと遊ぶかといったら、前者になるんだろうなあ。 ていっ…
[良い点] おっ、柚ちゃん攻めるか!(*^^*) [気になる点] 田代君、真広とリカちゃんをくっつけようとしてるな?(ΦωΦ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ