9話 十字ボタンの破壊者
女湯に入ると聞いて混乱した女子高生をどうにかなだめる。
この意味不明な文字列が逆に落ち着くんだから、俺もいい加減に毒されてきたなと思う。
むしろ女子高生のサンプルが宮野しかいないせいで、世のJKってみんなこうなんじゃないかとすら考えちゃう夜もある。悪夢。
でもってその問題を俺にぶん投げるマヤさんよ。理解度が高すぎるんだよな。
本当に意味不明なことに、たぶん、誰かがどうにかするなら俺が適任なんだ。
まあ。冷静に考えてさ。
この家に来てから守られた常識なんて、日曜日は週に一度しか来ないとか、寝たら朝が来るとか、そういうレベルのことしかない。日曜日は週に七回来てほしいし、開けない夜もあってほしいですよね。
でもってこんなしょーもない話題を出すのに、わざわざ話し合いとかするのもしゃらくさい。
「ゲームやろうぜ」
「げ……げーむとはなんだ?」
「いい加減に帰ってこい。もう二時間経ってんぞ」
「はっ。ボクはなにを」
「なにもしてないんだけどな」
まじでぼーっとしてるだけだった。ロボみたいに朝ご飯食べて、自分で片付けしてたけど。その後はリビングのソファで座ってるだけ。
ちょっと怖くなって放置しちゃったもんな。
時が解決してくれるパターンを願ったが、確認しに戻ってもこれである。
こうなったらやるしかないだろ。ゲーム。
「なるほどあれは夢だな」
「いや、温泉は行くぞ」
「ボクを置いて先に行け……っ」
「別にいいけど後から来いよ」
「トム先輩の優しさが胸に痛い!」
手で押さえてソファの上でジタバタする。現役女子高生の本気のジタバタ。けっこう衝撃映像。世界ふしぎ〇見とか、なにこれ〇百景あたりに出したら採用してもらえるかも。
そんなお魚宮野を横目に見ながら、テレビとゲーム機を繋いでいく。
「マリカって知ってるか?」
「呼んだわね真広」
「呼んでないです」
颯爽と扉を開けて入ってきたのは、なぜかコントローラー完備のマヤさん。長い黒髪を手で払って、大人の貫禄はバッチリだ。手に持っているコントローラーさえなければ。
「呼ばれなくても問題ないわ。蹂躙してあげる」
「無茶苦茶すぎる!」
本能に従って生きすぎだろ。
「悠奈もやるわよね」
「あ、ああ。……ボクもやる」
混乱した表情で座り直し、辛うじて参加の意思を示す。
人を困らせることが得意な宮野だが、なんだかんだ彼女自身も混乱することが多い。もうちょっと落ち着いてほしいと切に願う。真広おじさん心配だよ。
「懐かしいわね。『緑甲羅のマヤ』と呼ばれた記憶が蘇るわ」
「友達いました?」
「必要経費よ」
「覚悟が重すぎる」
この人から滲み出るガチ感はなんなの?
さすがというべきか、変人だらけの穂村荘を仕切っているだけはある。筆頭変人。変人女王。口が滑ったらぶっ飛ばされるのでチャック。
「そうか。マヤさんも剛の者か……」
静かに呟いて、殺気にも似たオーラを放つのは『女風呂の宮野』。なんだろう。当たり前のことなのに面白いのやめてもらっていいですか?
「ボクもまた、直ドリを極めし者。血で血を洗おうじゃないか」
「そのテクニック、けっこう前から使えないぞ」
「「え」」
驚きが二つ。
いつの世代のガチ勢だったんだよ。特に宮野、お前、俺より年下なんだよな? 中におっさんとか入ってんのか?
「とりあえず始めましょっか。俺もあんまりやったことないんで、練習がてら」
「そそそそうね」
「だだだだだな」
「あんたらは血でも繋がってるのか」
ガタガタ震える姿が完全にシンクロしている。姉妹と言われれば納得してしまいそうな、そんな二人。
類が友を呼んだのか、影響し合う中でこうなったのか。
どっちでもいい。どっちでも素敵なことだし、俺にとっては厄介極まりないのだから。
DSマリカは神ゲー。




