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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 1章 ツンデレJCは見返したい
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5話 からあげトライアングル

 エプロン不在のキッチンで、古河の代わりに俺がフライパンの前に立つ。油跳ねで服が汚れるかもしれないから、と交替してもらった。俺の服は汚れが目立たない、地味なやつだ。なにかあってもダメージが少ない。


 油の中で肉が踊る音。なんでこんなに素晴らしいのだろう。ヒーリングミュージックみたいだ。

 近くに立った古河の指示を聞きながら、からあげ揚げ装置としての役割を果たす。


 リビングでは、裁縫道具を持ってきた七瀬さんがボタンを修復していた。


「よーし。それで終わり! ありがと」

「ほいほい。じゃあ、盛り付けるか」


 各自の皿を準備して、レタスを敷く。その上にからあげを載せて、味噌汁、米を用意して、サラダもつけて完成。この量をほとんど一人で作ってしまうのだから、古河の料理好きには感服する。


 もっと手伝ったほうがいいかな、とも考えたが、普通に足を引っ張ってしまいそうだ。キッチンは二人用にはできていないし。


 ダイニングに持っていくと、ボタンの付け直しも終わったらしい。


「できました」

「ありがとー。これでまだ使えるよ」


 戻ってきたエプロンを大事そうに抱える古河。その正面で七瀬さんはなんでもなさそうに、けれど少し困ったようにしている。

 ぼんやり二人を眺めていたら、七瀬さんに視線を向けられた。


「なんですか?」

「いや、すごいなと思って」


「別に。これくらい誰でもできますよ」


 ふてくされたように言う、が。


「俺にはできん」

「私もできない!」


「なんで二人揃って自信満々なんですか」


 腕組みして主張する俺と、手を上げて自己申告する古河。情けないぜ大学生二人。


「またお願いね、ゆずちゃん」

「……いいですけど」


 頬を軽く膨らませて頷く。

 なにか気に入らないことでもあるのだろうか。考えようとして、面倒になってやめた。どうせわからないことを想像するのは、俺の主義に反する。







 からあげの消費量と幸福度には強い正の相関があると思う。また、揚げたてであればあるほど幸福になるというデータもある。


 よく火の通った衣は、歯に触れるとパリッと割れる。肉との間にはカリッとした層があって、その下にはジューシーなもも肉。妥協のないつけ込みによって染みついた味、丁寧な温度管理によって作られた食感。


「沁みる……」

「あ、戸村くんが昇天してる」


「これは天国行ける」

「だよね。でも、天国にからあげってあるのかな」


「あるだろ。からあげもないのに天国を名乗れるか」

「でも、天国の人って霧とかかすみを食べるんじゃないの?」


「それは仙人な」

「そっかぁ」


 なるほどと納得して、古河も一口。「おいし~」と満面の笑みになる。

 そのやり取りが気になったらしく、七瀬さんが聞いてくる。


「お二人って、どういう関係なんですか」


 確かに、気になって当然ではある。

 だがなんと言えばいいのだろう。


「戸村くんとの関係…………ご飯を美味しそうに食べる人」

「ペットみたいだな」


「ペットみたいに可愛くはないよー」

「傷ついちゃうんだが」


 この女、ナチュラルにぶっ放してきやがる。


「ご飯を食べる友達。略して食べフレかな」

「食べログみたいに言うな。今日のご飯は星四つ! とか言い出したら嫌だろ」


「ちなみに今日は?」

「星五つ」


「やったぁ」


「……仲がいいんですね」


 七瀬さんはつまらなそうに言って、食事に戻る。それを意に介さず、


「ねえ、もしかして私たち仲良しなのかな」


 と聞いてくる古河。メンタルの強さというか、鈍感さがすごいな。


「どっちでもいいだろ」

「そか。そだね」


 気まずい空気になりそうだったが、まるで気にしない人物一名によって空気が滞ることはなかった。

 古河水希、恐るべし。







 初めての三人での食事は、主に一人の活躍で無事に終了した。どこか複雑な表情をしていた少女のことは気になったが、深入りする気にはならなかった。向こうも望んじゃいないだろう。

 人づきあいは最低限。プライバシーには踏み込まず、踏み込ませず。


 だが、その二日後。

 思わぬ形で俺は、七瀬柚子の姿を見つける。

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― 新着の感想 ―
[一言] 懸念された状況も、天然力で乗り切ったか。 少しでも距離縮まったかな。
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