8話 ガスガス爆発
対人能力ゼロ男くんな俺が合コンに行った結果。
なんか古河と恥ずかしいことを言い合ってしまった羞恥心と、シンプルに中間テストからの疲労でぶっ倒れた。
二十四時間の活動休止。俺はコンビニじゃないのでね。
土曜日をせいやさっ!とドブに捨て、なんとか復活した日曜日。
気怠い体を動かして一階に降りると、なにやら深刻そうな雰囲気で全員がキッチンに集まっていた。ダイニングではない。キッチンの、流し台。ダバダバ流れる水を見守っている。
……ついにうちでも虚無を飼い始めたのかな? まだ二次元のが正常じゃない?
流水の音で、俺が起床したことは気がつかれない。ちょっと寂しい。虚無よりも質量のある俺を大事にしてくれよって思ったけどなんかキモいな却下。虚無が可愛い理由、今の思考にすべて詰まってた気がする。
「…………」
声を掛けるのも憚られて、少し離れたとこに突っ立つ。
最初に気がついたのは、古河だった。
「あ、戸村くんおはよー」
「せ、先輩!? いたんですか!」
「いつの間に――っ!」
「不覚。背中を取られたわね」
「俺はアサシンか」
四人いて一人しか普通の挨拶がないってすごいよね。
「なんかあれすか。俺に見られちゃいけないやつ?」
「だったら共用スペースでやらないですよ」
「確かに」
「安心してほしいトム先輩。ボクたちは水を流していたのだ」
「絶妙に説明しないよなお前って」
言葉の無駄遣いって感じがすごい。
「で、なにがあったんですか?」
「ガスガス爆発よ」
「ガスガス爆発!?」
一大事じゃん!
「ちなみにうちはオール電化よ」
「ガス爆発なのにガスないじゃん!」
それこそ虚無だ。虚無ガス。真空となにが違うんだろう。
「お湯がでないんだよねえ」
「やっと追いついた。ここまで二分」
一言で済むことを聞き出すのに、ものすごい手間だ。伝言ゲームとかしたら絶対悲惨な目に遭う。宮野とマヤさんは意図的に変えそうだし、古河は食べ物と聞き間違えそう。
「給湯器が故障したんですかね」
「でしょうね。修理は後で頼むけど、日曜日だし。復活は明日かもしれないわ。今夜は水風呂」
「ちょうどいいですね。俺、滝行に興味あったんですよ」
「冗談に決まってるでしょ。大家として、そんなことさせられないわ」
否定するマヤさんは、ちょっと慌てているようだった。俺が本当にやると思っているのかもしれない。
やらないですけど。と、視線で訴えると気まずそうに咳払い。
「ということで、夕方から全員で温泉に行くわよ」
「温泉卵!」
「温泉ですか」
「このへんにありましたっけ」
「……お、んせん…………」
それぞれが反応を示す中で、一人、おかしな様子のやつがいた。どんな変態が紛れているのかと思ったら、綺麗な顔をした眼鏡女子、宮野悠奈。目をぐるぐる回して、ふらふらとこっちに近づいてくる。
「と、とと、トム先輩! ボクはこっち側でも構わないだろうか!」
「構うわボケ」
「はぐあっ」
強めにデコピン。目を覚ましてくれ。
「た、たた確かに男湯もいただけないな。……だが」
「だがじゃないだがじゃない。普通に女湯だから」
「なあに悠奈。公衆浴場は苦手?」
「苦手なものか! 小さい頃から、温泉は大好きだっ!」
じゃあなにが気に入らないって言うんだよ。
もしかして宮野、ここにいる女子たちを狙ってんの? そっちルート? ハーレムは戯れ言ではなく?
でも女湯に入るのを躊躇うハーレムキングってやだな。もっと堂々としてほしい。クズならクズらしく、その道を極める覚悟ってやつを見せてほしい。
そんな俺の願いと、残り三人のはてなを置き去りにして、宮野は頭を抱えてなにやら呪詛を唱えている。触れちゃいけないタイプの魔物なんだよなこいつって。それでちょっと前に実家まで連れてかれたし。
「真広。あんた、なんとかできない?」
「……残念ながらできます」
誠に遺憾ながら、宮野の扱いには長けているので。
「そ。じゃあなんとかしといて」
「ういーっす」
ま、言われればやるしっていうか言われなくてもやるんだが。
というわけで、本日の予定が決まりました。
この臨機応変な対応。暇人って素晴らしいね。