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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 1章 誘惑の多い季節ですが、共同生活は続きます。
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6話 順調

 背がそこそこ高くて筋肉もついてて髪は明るくて、ピアス空いててにかっと笑うタイプの男はマジでいいやつ。これは二十年間生きてきた中で培った理論でも、信頼度的にかなり上位にランクインする。


 背がそこそこ高くてひょとってしてて髪は黒で、ピアスはなくへらっと笑うタイプの男はどうせオタク。これは俺。


「戸村クンて伸也と知り合いなんでしょ?」

「まあ、一応」


「俺は田代たしろ玄斗げんと。玄斗でいいぞ」

「戸村真広。呼び方はなんでも」


 完璧に物怖じしながら握手。


「名前で呼ばれるのは嫌系?」

「いや別に。気にしないけど」


「じゃあ真広クンでいいか」


 わーすげえこの人のコミュ力。心のドア馬鹿力で開けてくるじゃん。でもってニコニコしてるから、つい「あ、おう」とか言っちゃうし。

 ここ最近の初対面が唐突、警戒、敵対、子供扱いだったから、このフレンドリーさは耐性がなくなっている。いっそ「ちっ、誰だてめえ」とかだったら捌きやすかったのに。


 緩くため息を吐く。

 めんどくせえな、とか思ってしまうのはなぜだろう。泡のように生まれたその感情は、嫌悪からくるものではない。苦手なのだろう。


「田代で最後だね。じゃ、お店はいろー」


 向井さんが手を挙げて、団体ツアーみたいに列を成す。

 合コンってTHE大学生みたいな感じだよな。俺も昔は憧れてた。でも今になって思う。知らない人と飯食って話すのって辛くない?


 で、店に入って最初にやること。席決め。

 男同士の席配列というのはこの場合まったく関係なく、どの女子と向かい合うか。という部分にフォーカスされる。女子側もしかり。


 合コンというのは同性同士で仲良しこよしする場所ではないのだ。異性を喰らうデスゲーム。二次会が終わる頃には不思議と人数が減ってる。脱落者のほうが勝ち組だったりすることもあるらしいので不思議だ。いったいなにが起こってるんでしょうね?


 俺はここぞとばかりに安パイ切って左端。というか古河の正面を狙いに行く。


「あ、水希。私こっちがいい」

「いいよー」


 と思ってたら向井さんが特殊召喚。星4モンスターかな?


 一個ずれて古河が真ん中に。気まずくて右端へスライドする長谷。真ん中にやってくる合コンマスター。


 結果。

 俺、向井さん。

 合コンマスター、古河。

 永谷園、もう一人の女子。


 という組み合わせになった。まあ、うん。別にって感じだ。ノーコメント。

 ちらっと隣を見たら田代はめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。気持ちはわかる。古河めっちゃ可愛いもんな。


 ……また被害者を増やしてしまった。


「大丈夫トムくん? 具合悪いの?」

「…………」


 顔を上げる。ポニーテール。眼鏡のイケメンJKはいない。


「…………」

「あ、嫌だった? ごめんね。水希からいろいろ聞いてたんだけど。なんて呼ぼうか困ってて」


「それが気に入ったならそれで大丈夫だよ。……もうけっこうな人数から呼ばれてるし」

「そう? じゃあ私も利香でいいよ」


「トムは苗字から取ってるんだけど」

「あ、だね」


 このやり取り、そのうち全人類にやる日が来るんじゃないだろうか。嫌な予感がする。なんか不敵に笑う宮野が思い浮かんだ。腹立つわー。


「でも向井さんじゃ、ちょっと遠いんだよね」

「利香さんは?」


「それにしよう」


 マヤさん相手に積んだ経験が役に立った。さん付けすれば、下の名前で女子を呼べる!

 などというやり取りを、とりあえず向かい合った同士でする。それから注文をして、自己紹介は一段落ついてから。


 各々が名前と趣味と、それから少し冗談を言ったりする。女子からスタートして、最後は俺。練習通り「趣味はゲームと読書です」と言って場の空気をどん底まで沈めた。怪物クローザー現る。


 その後は特に全体での会話はなく、なんとなく気まずい空気が漂う。料理と飲み物によって状況の打開を求める一同。運ばれてくるサラダとつまみ、ドリンク。

 取り分けるときに生まれる会話。できる流れ。隅っこでドリンクと向き合う俺。今日はノンアル休肝日。


「トムくんはサラダいる?」

「いただきます」


「固いな~。もっと軽くていいって」

「難しい」


「いつも水希に言ってるみたいに」

「サラダありがてえ……っ!」


「どういう関係なの!?」


 ママとその保護者です。古河は俺のことを保護者だと思っているらしいんでね。つまり俺は穂村荘のグランドファザー。お爺ちゃん子のみんな寄っておいで。

 とかなんとかやってたら、少し緊張もほぐれた。サンキューマッマ。


「利香さんは、古河とバイトが同じなんだっけ。ケーキ屋さん?」

「そう。『こぐま』ってところ。ケーキの美味しいお店なんだ」


「知ってる。クリスマスにワンホール食べたから」

「…………」


 あ、やばい。完全にヤバいやつだと思われた。利香さん顔引きつってるし。


「いや、あの、あれだ。これまでの人生を累計して、ワンホールぶん食べたんだ」

「言葉の綾かー」


 ほっとした顔で笑う利香さん。そうです言葉の綾です。

 ちなみにあの日以来一度も『こぐま』のケーキは食べてない。古河が焼いてくれるので。


「トムくんは、なにかアルバイトしてるの?」

「家庭教師を」


「へえー。頭いいんだ」

「人並みだよ」


 返答に困る言葉ランキングトップ10には入る。『頭いいんだ』。塾講師系のバイトをしている人は絶対に通る道であり、そのほとんど全員が苦悩すると思われる。

 否定するのも嫌味っぽいし、「そーなんだよ俺天才でさ」と答えようにもその後で笑いを取れる黄金式はまだ発見されていない。誰か見つけてほしい。千年残る偉業だと思う。


 必死に考えた結果、限界まで無難な流し方を身につけた。というのが先のやり取りである。


 これに関してはぶっちゃけ、答え方というよりはフリが悪いんじゃないだろうか。とも思っている。絶対にしてはいけない前振り、会話の中のNG集。義務教育に取り込まれるのはいつの時代なんだろう。


「家庭教師って、けっこう大変なんだってね」

「接客業には敵わないと思うけど」


「そんなことないって。人に教えるとか、絶対ムリ」

「俺もずっとニコニコして挨拶できないし」


「そうなの?」

「俺の笑顔、想像できる?」


「……できない、かも」


 困惑する利香さんに、深々と頷く。俺も想像できない。鏡の前で笑ってみようとして羞恥心で塵になったことはある。


 じゃあさじゃあさ、と。利香さんは次の話題を出してくれる。俺に気を遣ってか、元々こういう人なのか。


 隣では古河と田代の二人が、「じゃあさ水希さんって、この店知ってる?」「あっ、このお店知らない」などと言って案外盛り上がっていた。

 ……ま、いっか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 合コンマスターはトマトが平気なタイプかな?
[一言] 合コンって、学生と社会人とどっちが頻繁にするんだろう。 さすが、本物のぱりびは食べ物への造詣も深いか。さあ、これは一つのそこにある危機だ!
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