表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 1章 誘惑の多い季節ですが、共同生活は続きます。
76/173

5話 あいつわしより強くね?

 やっべえまじで家帰りてえとか思うことが最近増えてきたのは、あの家が最高だからなのかお外が最悪だからなのか。後者のような気がしなくもないけど、世間体を考えて前者にしておこう。穂村荘、最高っ!


「…………」

「…………」


 先に来ていた二人と合流して、当然のように男女で分かれる。

 長谷伸也っていう初対面の人と向かい合った俺。戸村真広っていう初対面の人と向かい合った長谷。


 降りる沈黙死ぬ空気。

 最近の空気ってすぐ死なない? 俺の周りだけやけにHPの少ない空気が漂っている気がする。


「はろはろ水希」

「はろはろリカちゃん」


 対照的に仲良しな女子二人は手を合わせてニコニコしている。いい眺めだ。やはり女の子同士が仲良くしているのは目に優しい。


 ポニーテールの女の子が、向井利香さんなのだろう。はっきりわかるメイクだが、厚化粧みたいな悪印象はない。むしろ上手いと思う。キラキラした、普通に可愛い女子大生って感じだ。

 皆が化粧を覚えるから、大学に行くと可愛い女子が急増します。普通は可愛い。可愛いは普通。ここテストに出ます。


 向井さんは古河と笑顔を交わすと、視線をこっちに移す。


「君が戸村真広くんなんだね」

「…………」


「あ、もしかして緊張してる?」

「…………ええっと」


「うん」


「こんにちは」

「こんにちは」


「さようなら」

「待って! なんで帰ろうとするの!?」


「俺はもう、出し切ってしまった……」

「早いよ! まだなにも出してないよ! 溜め込みすぎな現代人だよっ!」


 開幕の挨拶だけで心がへし折れた俺と、なんとか鼓舞しようとしてくれる向井さん。

 間に入って会話を止めたのは、長谷だった。


「まあまあ、ちょっと落ち着いてやれって。……戸村、大丈夫か?」

「大丈夫。致命傷だ」


「なんであれが致命傷なんだよ」


 明るくて化粧が上手くてポニーテールな女子大生が俺に向かって笑顔で挨拶してきたんだぞ? 恐怖で奥歯ガタガタ鳴ってるわ。


「深呼吸だよ戸村くん。リカちゃんは噛まないよ」

「……本当か?」

「私はいったいなにを誤解されてるの!?」


 古河しか安心できる相手がいない。やっぱり頼れるのはママだけなんですね。今後もことあるごとにオギャっていきたいと思います。


 ゆっくりと呼吸して、どうにか精神を整える。


「……向井さん」

「は、はい。なにもしないよ。リカちゃんさんは無害ですよ」


「向井さんは、スベった人に『うわっ、寒いな~』みたいな視線を向けない人ですか?」

「向けないよっ! そんな残虐なことしない!」


「古河。この人、信用できるぞ」

「どういう判断基準!?」


 一般女子大生が怖い理由ナンバーワン。自分はボケもツッコミもしないくせに「面白い男の人が好きっ(ハート)」みたいなことを言う。そのくせスベると「は? 死ねよ」みたいな目で見てくるところ。

 顔にはちっとも表さず、「おもしろいね~」とか言いつつ音信不通になるタイプもいるので注意が必要だ。新一年生のみんな、心を強くもっていこうな!


「っていうか私、自分から笑い取りにいっちゃうタイプだしっ。盛り上げ隊長的な?」

「なんと」


「だからどっちかというと、スベって痛い目見る側です!」

「俺たち、友達になれるかな……」


 堂々とした宣言に、ちょっと泣きそうになった。


「すごいよリカちゃん。戸村くんが心を開いた」

「うんまあ、変わった人とは聞いてたけどね……」


 曖昧な笑みを浮かべる向井さん。なんか知らないけど、がっかり感が出ていていいと思います。この調子でどんどん俺を恋愛対象から外していってほしい。


 古河と向井さんが話していると、長谷がすっと隣に来る。訝しげな表情で、


「お前、なにやってんだよ」

「なんのことだ?」


「人見知り、そこまで酷くないはずだろ」

「いやいや。初対面の人はみんなシリアルキラーだと思ってるからな、俺は」


 こいつにはバレると思っていたけど、バレたからなんだ。多少俺のことを知っていたって、知っているだけ。なにも関係はない。


「つーか長谷、まだ古河狙ってんの? さすがに女々しくないか?」

「ばっ、そうじゃねえよ。たまたま向井に呼ばれたから来ただけで……」


「はあん」

「信じてないだろ」


「どっちでもいいんだよ、別に。ただ、一つだけ言わせてくれ」

「な、なんだよ……」


 もしもこいつが、まだ古河を狙っているのなら。一つだけ言っておかなくちゃいけないことがある。


「仮にお前が古河と付き合うことになったりしたら、俺は女子高生に惨殺される。ということは覚えておいてほしい」

「すまん。なに言ってるか一ミリも理解できなかったんだが」


「事件は既に始まっているんだよ、長谷」

「こええよ! お前の周り、なんかこええ!」


 昨日の夜にしっかり宮野にお願いされているからな。どうか古河に彼氏ができないようにしてほしいと。「もし、トム先輩が阻止できなかったら……その時は、テコの原理を応用することになる」とも。

 どんな殺戮兵器が生まれるかわからないし知りたくもない。選ぶ知識が的確すぎるんだよあのJK。


「ま、好きにしたらいいさ」

「それを聞いて好き勝手できるほど、俺の肝は座ってねえ」


「ふうん……」


 話を切るときはどうすればいいんだろう。

 まあ、視線を外せばいいか。そうすれば向こうも察してくれる。


 なんなんだろうな。この。胸の奥にあるつっかかりは。ずっと忘れていたのに、長谷と会うと急に思い出す。日常で思い出すことはないから、大した価値はないのだろうけれど。


 それでも今、気持ち悪いから。

 妙に気遣ってくる長谷と、気にしないように振る舞いたい俺と。ギスギスするわけでもなく、空回るわけでもなく。半端にお互いを知っているせいで、なおさら気まずさが際立つ。どれくらい気まずいかというと、ワンチャン古河が気がつくくらい。


 ため息交じりに話を再開する。


「なあ、お茶漬け野郎」

「さっきも思ったけど、あれって俺のことだったんだな」


「古河はお前の名前など覚えていない」

「マジか」


「――前にお前らのこと、完全に興味ないって言ったな」

「……おう」


「あれは本音だよ。マジでどうでもいいって思ってる。あのグループの疎外感が、お前らのせいだったって言うほど子供じゃない。だけど俺は、それで全部を許せるほど大人でもない」


 ポケットに手を突っ込んで、適当に街を眺める。仕事帰りのスーツ姿が行き交う、横断歩道の光景。隣で憂鬱な顔をしている男よりは、よっぽどマシだ。


「俺は長谷が嫌いだ。だけど、お前がいいやつだってのは知ってる。だから、まあ、好きにしてくれ」

「……わかった」


 合コンだってのに、なにを男二人で話し込んでるんだ気持ち悪い。

 可愛い女の子といっぱいお話したいもんだぜ。なんて言ったら、俺の根幹が崩れるので却下。マヤさんに処刑される。


 さて。

 そろそろメンバーも揃うかね。


 ちらっと確認すれば、女子のほうにはもう一人加わっている。

 となると、残りは男一人か……。合コンマスターとしての俺の地位を脅かさないやつだといいが。


「すまんすまん、遅れた!」


 大きな声がして、一同振り返る。

 そこにいたのは、金髪でラフな服装をした、耳元でピアスの光る大柄な男だった。


 こっちを見てにかっと笑う。


「俺が最後っぽいな。わりぃ」


 余裕のある笑み。なんだこの主役登場感。


「おっ、伸也いい服着てるな」


 長谷の肩をがしっと組んで、まぶだちみたいなこと始めた。

 やべえ。やっべえやつ来た。


「んで、そっちのが戸村クン? よろしくな」

「…………うぇーい」


 合コンマスター(本物)が来ちゃったよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 合コンマスターは、誰を狙ってくるか… 別に、それが女だとは限らない?
[気になる点] 長谷伸也っていう初対面の人と向かい合った俺。戸村真広っていう初対面の人と向かい合った長谷。 ここの解釈がわかりません。長谷と戸村は初対面ではないですが、初対面のような気まずさという表現…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ