4話 気まずいって話する?
「中間テストを、ぶっ壊す」
「おー!」
六月中旬。季節の折り返しに一斉に襲いかかってくるテストの群れ。
大学での試験を突破するにあたって、最重要アイテムは過去問である。だがしかし、俺も古河も学科の友人がほぼいない。わざわざ過去問入手のためだけに人に話しかけるほど、恥知らずなこともできない。
結果として選んだ手段は、ちゃんと勉強することでした。やっぱり正攻法が一番いいよね! 不安エグいけど!
というのも大学の教授、それぞれの個性が強すぎてどんな形式になるかが読めないのだ。だからヤマを張ることもできず、ノートを見返しながら「ああ、ここなんか赤文字で書いてるなウケる」とか思いながら勉強するしかないのだ。なにわろとんねん。
しかも悪質なことに、テストというのは約二週間の間に密集している。連日連夜テキストと机にかじりつき、付け焼き刃の知識を頭にねじ込んでいくルーチンワーク。七瀬さんの授業を削るわけにはいかず、必然的に削れるのはゲーム時間。SAN値がごりごり減っていく。
「やばい古河。走馬灯見えてきた」
「頑張って戸村くん! 今日の晩ご飯はポトフだよ」
「まだ死ねねえ……っ!」
お互いに励まし合い。というか主に俺が励まされながら、必死で日々を乗り越えた。
試験と試験の合間には大量のレポートも書いた。単位くださいという強い思いを込めた。死後強くなるタイプの念。
◇
そんな地獄の日々を終えた、金曜の夜。
「さあ行くよ戸村くん! リカちゃんが待ってる!」
「…………うっす」
完全にHPが尽き果てた俺と、なぜか全回復している古河。どこでついたんだこの差は。古河さん、マキシマムトマトでも食べたんですか?
俺なんかさっき宮野に「大丈夫かトム先輩?」と聞かれて「もうだめぽよ~。ぽよみざわ~」とか言っちゃったんだぞ。やべえだろ頭。
こんな状態で行く合コンってなんなんすかね。まあいいんですけど。参加型不戦敗みたいな立ち位置だし。
古河に連れられててくてく歩き、電車に乗り、少しばかり栄えたエリアに出る。
ようやく気力を取り戻してきたので、人間らしい会話を切り出すことにした。
「リカさんって、上はなんて名前なんだ?」
「向井だよ。向井利香」
「ほーん」
会話、終了。
あれ。会話ってどうやって続けるんだっけ。
ここ最近ずっと紙と向かい合ってたせいで、人とのコミュニケーション能力が低下している。これじゃあ一月に「ヤバいな」「ヤバいよな」「マジヤバい」って言ってた時期と大差ない。
ようこそ平成ギャルレベルの語彙力。さようなら表情筋。だから私はエクスペ〇ア。
「大丈夫戸村くん? お腹空いた?」
「俺はわんぱく小僧か」
「?」
あ、やばい。なんか返しのキレも悪い。著しく調子が悪い。無理ぽよ~。
これはもうぽよぽよ言って乗り切るしかないかもしれん。吉と出るか凶と出るか。ワンチャンおもしろ人間国宝になれるかもしれないが、スベったときの代償は計り知れない。
……うん。
こういうときは、あれだ。心を無にしよう。心頭滅却すれば火もまた涼し。強がりで草。
「……すまん古河」
「どうしたの?」
「今日の俺、一ミリも面白くないかもしれん」
「大丈夫だよ戸村くん。……たぶん!」
「とりあえず励ましとけみたいなの逆に傷つくんだが!?」
変に力強いだけ余計にね。一生懸命さが伝わって来ちゃうから。
「そんなこと言われてもねえ。私だって、別にぜんぜん面白くないでしょ?」
「いや、古河はめちゃくちゃ面白いぞ」
「そうなの?」
「正直俺じゃあ歯が立たないと思ってる」
天然極まりすぎてて同じ土俵にすら立てない。彼女の前では常に、一手遅れたツッコミをしているような気分になるのだ。
「うーん」
「どうした?」
「別に、冗談言ってるつもりはないんだけどなぁ。って」
「だからいいんだろ」
「あっ、もしかしてからかってる?」
「まさか」
むっとして頬を膨らませた古河に、軽く笑ってかぶりを振る。
「いいと思ってる。それ以上でも以下でもないし、洒落た言い回しも思いつかん」
「ううん……?」
「ほら、そろそろ目的地じゃないのか」
「あ、ほんとだ。リカちゃんいたよ」
「古河……ちょっと前出て。俺のこと守って」
すーっと後ろに下がって女子のことを盾にするやつがいるらしいんですよ~。
杵と臼持った二人組が近くにいなくてよかった。あやうく断罪されるところだった。
「あれ、リカちゃんの隣に誰かいる」
「性別は?」
「男子みたいだよ」
「ほほう……」
そおっと目を細めて、その誰かを確認――
「って、あれ」
「あっ」
リカさんに対して不安メーターが急上昇。どういう人選をしたんだよと心の中でツッコミ。ついでに古河と声を合わせて、
「永谷園くんだ」
「永谷園じゃん」
お茶漬けみたいなやつがいました。
逃げるのコマンドってどこにあるんですかね。




