表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
初夏の節 それを喜劇と呼べるなら
68/173

16話 夜の散歩・中高大トリオ

 模試の振り返りを終わらせて、いつものように夕食を摂って、のんべんだらりんとした夜がやってくる。


 大学の課題という現実にはそっと蓋をして――というわけにもいかないので、さっさと終わらせる。単位があればいい単位があればいい。ギリギリを見抜け限界まで手を抜けコーナーで差をつけろ!

 研ぎ澄まされた瞬足マインドで課題を打破。


 時刻は九時。っしゃあ! まだ夜は始まったばっかりだぜ!

 誰も見ていないのをいいことにガッツポーズ。部屋の中にいる陰キャはウェイ系よりもテンション高い。


 さっそくゲームを始めようか。この間買ったダンジョンゲームの難易度が高くて、少々手こずっているのだ。だが案ずることなかれ。俺はレベリング厨。

 勝てぬなら、勝つまで上げろ能力値。


 というわけで長期戦の体勢を作ろうとしたのだが……。


「ん。お菓子切れてんじゃん」


 ダメ人間の三大神器。ゲーム、スマホ、お菓子の一角を占めるものがない。これは一大事だ。ゲームできない(できる)。


 九時ならまだ、ぜんぜんスーパーは開いている。買いに行きますか。

 財布を持って鍵を手に持ち、エコバッグに両方ともぶち込む。


 玄関で靴を履いて、意気揚々と飛び出そうとしたところ。声を掛けられる。


「お出かけですか?」


 リビングからひょっこり顔を出した七瀬さん。久しぶりにみたな、その登場。


「うん。スーパーまでちょっとね」


 答えると、七瀬さんの顔の上からもう一つひょこっと。眼鏡をかけた美少年(笑)が生えた。


「この時間はよくないぞ。補導される」

「俺を何歳だと思ってんだよ。っていうか、まだ九時だから。そんなアウトな時間じゃないから」


「ならば職務質問か」

「どうして俺と警察を引き合わせたがるの? そういうカップリング流行り?」


 まひポリは解釈違いだと思うんだよなぁ。

 美人でSっ気の強い警察さんなら話は変わってくるけどさ。なんでもないですごめんなさい。


「行ってくるけど、なんかほしいものあるか?」


 問いかけると、二人は何度か瞬きして、お互いに目を合わせ、相談を開始。リビングの中へ急ぎ足で入っていく。


「?」


 首を傾げていると、すぐに出てくる。


「あの、先輩。私たちも、ご一緒していいですか」

「ボクたちも、一緒に行っていいだろうか」

「いいけど」


 首を縦に振ると、ぱぁっと笑顔を咲かせて「ちょっと待っててくださいね」「しばしお待ちを」とそれぞれ言って二階に上がっていく。


 わりと本気で保護者的な感情が芽生えてくるな。保護しちゃうぞ。げへへ。

 やばいやつじゃん。おまわりさんこっちです。俺です俺。今のうちに逮捕した方がいいですよ?


「なんだかなぁ……」


 軽い気持ちで承諾したはいいが、実際どうなんだろう。明らかに血の繋がっていない俺たちが、夜のスーパーにいるのって。

 どんなふうに見えるんだろう。全然似てないけど兄妹みたいになるんだろうか。


 どうでもいいか。


 一足先に外に出て、待機。三人揃ったところで、いざ行かん。スーパーマーケット。







「そういえば、二人はさっきまでなにやってたの?」

「勉強です」

「ああ。だが教えたりとかではなく、お互いに自分のことをやっていただけだ。だから誓ってなにもしていない」


「宮野はいったいなにを恐れているんだ?」


 ただ聞いただけなのに弁明が始まってるじゃん。悪い意味で俺に似てきたよな。


「にしても、宮野が勉強か……」


 一緒にふざけてるイメージしかないから、少し意外だ。


「むっ。失礼な、ボクだって勉強ぐらいする。トム先輩みたいにゲームのことしか考えていないわけじゃない」

「俺だってゲーム以外のことも考えてるぞ」


「たとえば?」

「明日のご飯とか」


「ぷっ」


 噴き出したのは七瀬さんだった。


「平和ですね。先輩って」

「将来の夢は、ハトから平和の象徴の座を奪うことだからね」

「相手は手強いぞ。やれるのか、トム先輩に」


「やってやるさ。どんな手を使ってもな」

「引き合いに出されるハトさんが可哀想です……」


 俺と宮野の連携によってぶっ壊された話のレール。七瀬さんがツッコミはするけど、異次元の会話には変わりないなこれ。


 生産性のない会話は好きだ。今を楽しんでるという実感があるから。

 吹けば飛ぶような軽さで、今日を笑っていたい。


「柚子くんは、将来なりたいものはあるのか? ちなみにボクは未定だが」

「お前は未定なのかよ……いや、まあ、理由は想像できるけどさ」


「参考にしたいのだ。トム先輩も教えてくれないだろうか」

「そういうことなら」


 参考に、ねえ。じゃあ立派な答えでもしたほうがいいのか。夢のある回答? ガラじゃない。


「俺はもうすぐ社会人だからな。とりあえず、不自由のない生活を送りたい。十分な収入とストレスフリーな職場を手に入れることが、当面の夢かな」

「トム先輩に就職の意思があったとは」


「あ、やっぱなし。俺の夢はヒモニートです」


 危ない危ない。俺としたことが、うっかり労働ルートに突入するところだった。ありがとう宮野。俺の目を覚まさせてくれて。

 安西先生……俺、働きたくねえ!


「柚子くんは?」

「私もまだ、よくわかってないです。……ただ、少しずつ、一つずつ前に進めたらいいかなと。そう思います」


 横目でちらっと俺を見て、なんでもなかったふうに前を向く。


「一番立派な答えだったな。うん。ボクもそうしようかな。トム先輩もご一緒にどうだ?」

「頑張るの? 俺が? マジで言ってる?」

「悠奈さん。先輩は先輩なりに、先輩にできる全力でいつも頑張ってくれてますからっ!」


「フォローしてる……のかな?」


 微妙に皮肉な気がするのはなぜだろう。被害妄想かな?


「そうか。これがトム先輩の全力か。ふっ」

「ただし宮野てめーはだめだ」


 こっちは明らかに嘲笑が混ざっていた。


 怒ったフリをすると、イタズラが成功した子供みたいにくすくす笑う。俺が笑えば、釣られて七瀬さんも笑い出す。


 まあ、こんな感じよな。兄妹じゃないけど、仲はいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 仲良きことは美しきかな。 就職を、懲役40年確定、って評していたのがあったな。どの段階から、人は先を見るようになるんだろう。 続きは、ぼちぼちと待っています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ