12話 きっかけ
ドライブデートは難易度が高い。
大学生になり、免許を取得したイキリメンズがやりがちだが、大きな落とし穴がある。
運転中の会話は弾まない。っていうかそんな余裕ない。こっちは運転して大変なのに、女子がだんまりになったら地獄だ。話題提供も行わなければならない。
対策として音楽を流そうもんなら、もっと終わりだ。
その日は自分の好きなアーティスト紹介で一日が終わり、なんのアピールにもなりやしない。運良く趣味が被れば話は別だが、だったらドライブデートじゃなくてライブに行けって話である。
裏を返せば、ドライブデートを極めてるやつは本物。女子の扱いに慣れてるし、どんなデートでも楽しくやれるようなプロ。
じゃあ俺は?
任せとけって。
どんなデートでも永久凍土の向こう側へ葬り去るエキスパート。なんか微妙に違うことで有名な戸村くんだぞ? 全部苦手だから相対的にドライブは得意な部類に入る。
ま、そもそもデートじゃないんですけどね。
「クーラーボックス持ったか?」
「持ったよー」
「氷は?」
「入ってる!」
「よし。じゃあ行くか」
「お願いします!」
「ほいほい」
マヤさんから借りた車に乗り込んで、エンジンを入れる。ワンデイ保険にもちゃんと加入して、最悪の事態があってもOK!
「シートベルトよろしく」
「はーい」
「あ、これ飲み物」
「えっ、ありがとう!」
ミルクティーを渡し、自分のぶんの無糖紅茶もホルダーに。
「んじゃ。出発するぞ」
◇
法定速度ガチ勢の俺は、五十キロと六十キロの間でしかタイヤを転がさない。テクニックだぁ? うるせえ引っ込んでろ。の精神。
「なんか音楽流す?」
「なくてもいいよ」
「じゃ、なしで」
「らじゃー」
今日の助手席は古河だから、なにも気負わなくていい。会話が弾まなくても気まずくないし、なんなら古河は寝ても構わない。
めっちゃ楽だな。これ。
「免許って、いつ取ったの?」
「去年。入学してすぐの頃にな」
「そうなんだ」
「古河は取らないのか?」
「うーん。あれば便利だけど、ちょっと怖いかな」
「まあな」
「美味しそうなお店あったら、よそ見しちゃいそうだし」
「まあ、な……」
本気で危ないやつだった。そして本気でありそうなやつ。
あ、あのお店可愛いね――ドーン! みたいな展開、容易に想像できる。
ちくしょう。こうなったら、俺が運転するしかないじゃないか! なんて責任感が芽生える。役割は人を強くするね。
ハンドルを切って右折。市街地を抜けて、山の方へ。公共の交通機関ではいけない場所に、美味しい店ってありがち。
「ずっと気になってたんだけどさ……俺たちって、去年には会ってたのか?」
「ん?」
「いや。俺の名前知ってたじゃん。そんなに目立ってたつもりはないんだけど」
「あー。……一方的に知ってたやつだね」
少し恥ずかしそうにする古河に、申し訳なくなる。
変な話ではあるが、こんなに可愛い女子だったら話せば忘れるはずがない。マジで変な話だったな。封印。
「学祭の打ち上げ、覚えてる?」
「学祭? まあ、ちょっとくらいは」
サークル部活には一切所属していないが、大学生である以上はクラスがある。学祭の出し物はクラスでやるのが一年生のルールで、俺も去年は参加した。
そしてその打ち上げといえば……なんだ?
そこまで言われてもピンとこない。
「俺、なんかやったっけ」
「戸村くん。お好み焼きをひっくり返すのがすっごく上手だったんだよ~」
信号が赤でよかった。
ハンドルを握りながらずっこけてしまう。
「全然崩れなくてね。あ、この人は『できる人』だと思ったんだ」
「なにその展開。少年漫画かよ」
「その後の接点はなかったけどね」
「なかったな」
再び動き出す車。目的地に向かって、ゆっくりと近づいていく。
「ってことはさ、俺がここにいるのって、上手にお好み焼きをひっくり返したから?」
「そうかもね」
「面白過ぎんだろ。人生」
初夏の節 はここから3連デート?回です。
マヤさんもあるよ。




