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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
初夏の節 それを喜劇と呼べるなら
64/173

12話 きっかけ

 ドライブデートは難易度が高い。

 大学生になり、免許を取得したイキリメンズがやりがちだが、大きな落とし穴がある。


 運転中の会話は弾まない。っていうかそんな余裕ない。こっちは運転して大変なのに、女子がだんまりになったら地獄だ。話題提供も行わなければならない。


 対策として音楽を流そうもんなら、もっと終わりだ。

 その日は自分の好きなアーティスト紹介で一日が終わり、なんのアピールにもなりやしない。運良く趣味が被れば話は別だが、だったらドライブデートじゃなくてライブに行けって話である。


 裏を返せば、ドライブデートを極めてるやつは本物。女子の扱いに慣れてるし、どんなデートでも楽しくやれるようなプロ。


 じゃあ俺は?

 任せとけって。


 どんなデートでも永久凍土の向こう側へ葬り去るエキスパート。なんか微妙に違うことで有名な戸村くんだぞ? 全部苦手だから相対的にドライブは得意な部類に入る。

 ま、そもそもデートじゃないんですけどね。




「クーラーボックス持ったか?」

「持ったよー」


「氷は?」

「入ってる!」


「よし。じゃあ行くか」

「お願いします!」


「ほいほい」


 マヤさんから借りた車に乗り込んで、エンジンを入れる。ワンデイ保険にもちゃんと加入して、最悪の事態があってもOK!


「シートベルトよろしく」

「はーい」


「あ、これ飲み物」

「えっ、ありがとう!」


 ミルクティーを渡し、自分のぶんの無糖紅茶もホルダーに。


「んじゃ。出発するぞ」







 法定速度ガチ勢の俺は、五十キロと六十キロの間でしかタイヤを転がさない。テクニックだぁ? うるせえ引っ込んでろ。の精神。


「なんか音楽流す?」

「なくてもいいよ」


「じゃ、なしで」

「らじゃー」


 今日の助手席は古河だから、なにも気負わなくていい。会話が弾まなくても気まずくないし、なんなら古河は寝ても構わない。

 めっちゃ楽だな。これ。


「免許って、いつ取ったの?」

「去年。入学してすぐの頃にな」


「そうなんだ」

「古河は取らないのか?」


「うーん。あれば便利だけど、ちょっと怖いかな」

「まあな」


「美味しそうなお店あったら、よそ見しちゃいそうだし」

「まあ、な……」


 本気で危ないやつだった。そして本気でありそうなやつ。

 あ、あのお店可愛いね――ドーン! みたいな展開、容易に想像できる。


 ちくしょう。こうなったら、俺が運転するしかないじゃないか! なんて責任感が芽生える。役割は人を強くするね。


 ハンドルを切って右折。市街地を抜けて、山の方へ。公共の交通機関ではいけない場所に、美味しい店ってありがち。


「ずっと気になってたんだけどさ……俺たちって、去年には会ってたのか?」

「ん?」


「いや。俺の名前知ってたじゃん。そんなに目立ってたつもりはないんだけど」

「あー。……一方的に知ってたやつだね」


 少し恥ずかしそうにする古河に、申し訳なくなる。

 変な話ではあるが、こんなに可愛い女子だったら話せば忘れるはずがない。マジで変な話だったな。封印。


「学祭の打ち上げ、覚えてる?」

「学祭? まあ、ちょっとくらいは」


 サークル部活には一切所属していないが、大学生である以上はクラスがある。学祭の出し物はクラスでやるのが一年生のルールで、俺も去年は参加した。

 そしてその打ち上げといえば……なんだ?


 そこまで言われてもピンとこない。


「俺、なんかやったっけ」

「戸村くん。お好み焼きをひっくり返すのがすっごく上手だったんだよ~」


 信号が赤でよかった。

 ハンドルを握りながらずっこけてしまう。


「全然崩れなくてね。あ、この人は『できる人』だと思ったんだ」

「なにその展開。少年漫画かよ」


「その後の接点はなかったけどね」

「なかったな」


 再び動き出す車。目的地に向かって、ゆっくりと近づいていく。


「ってことはさ、俺がここにいるのって、上手にお好み焼きをひっくり返したから?」

「そうかもね」


「面白過ぎんだろ。人生」


初夏の節 はここから3連デート?回です。

マヤさんもあるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 運転しながら音楽かけずに会話も弾んでいる件 主人公はプロだった……?
[一言] 20になったばかりじゃあ保険も高いよねえ。ワンデイ入る必要が有ったら、なんか相当高いアイスになりそうだ。 そこまでできる人なら、自分でもいっちょ料理作って見せないとねえ。食べてばっかりでし…
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