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6話 君の話

「見てくれトム先輩! ぬいぐるみ、ぬいぐるみだ!」

「でっかいな。値段は……oh」


 タグをそっと裏返しにして見ないフリ。こりゃあUFOキャッチャーのがお得かなって思っちゃうよな。

 ポイットモンスター。縮めてポイモン。ゲーム、アニメ、映画と幅広く展開する日本の一大コンテンツである。詳しいことは省略。


『一番人気!』と書いてあるネズミポイモンをつんつんしながら、目をキラキラさせる現役JK。その笑顔ってもっと小洒落た店で見るもんだと思ってたよ。


「もふもふするなぁ」

「もふもふするか」


「買ってもよいだろうか」

「俺に聞かないで?」


 親じゃないんだから。

 ……おじさんでもないからな。お兄さんって呼びなさ――それは違法か。


「ううむ。非常に愛らしいのだが、いかんせん場所を取るからな。悩ましいものだ」

「高いしなぁ」


「うむぅ……」


 真剣な表情でぬいぐるみを見つめる大きなお友達。

 そこにてくてく近づいてきた子供が、ぬいぐるみを指さして言う。


「パパー。これ買ってー」


 後ろから歩いてきた男性は、困ったように笑うと「仕方がないなぁ」と呟きぬいぐるみをカートに載せた。

 一部始終を、見て。


「おい宮野。今言おうと思っていることは絶対に言うな」


 隣から見つめてくる女子高生が「パ」の口になったのを即座に止めた。

 パから始まる活動、ダメ絶対。







 ひとしきりグッズを見てまわった後、本屋に行ってぶらぶら、電気屋に行ってゲームコーナーをぶらぶら。

 午前の徘徊が終わったので、ランチを取ることにした。どこも混んでいるので、少し並んでハンバーガー屋へ。


「しかしトム先輩、本当にケモミミが好きなのだな」

「小学生アイドルもよろしく」


「まさしく罪を犯していないだけの犯罪者だな」

「一般人だよそれ」


 言いたいことはわかるけども。

 運ばれてきたバーガーを一口。うまっ。


「こういうものは滅多に食べないのだが……これは、いいな!」

「たまにはな」


 夢中になって食べる姿は、クールな見た目からは想像もつかないほど純粋で、どこか幼さを感じさせた。幼稚だとかいう意味じゃなくて、初々しいとかそういう。

 これが素なのだろうか。


 他の面々の前では、爽やかな姿を演じているが(演じられているかは別として)。それが本心ではないことは、宮野からも聞いている。

 ま、俺がいろいろ考えてもしょーがないんですけどね。


「今度来たら、別のやつ試そうぜ。ほらこの、エビフライバーガーとか美味そうだし」

「ボクはこっちのビックバンバーガーが気になるところだ」


「バカの食うやつじゃん。……でも美味そうだな」


 アゴの可動限界を無視して積み上げられた特大バーガー。上から串で突き刺しているのは、そうでもしないと崩れるからだろう。


「また来よう。約束だ」


 真っ直ぐ見つめてくる少女に、肩をすくめる。


「もちろん」






 店を出て、次に行きたい場所を尋ねると、


「あと半日残っているのか……難しいな。どうしたものか」


 と、もはや俺を家から遠ざけていることを隠さない発言。気がつかないフリをする俺ってばマジ鈍感系。きゃー抱いて。


「時間余ってるなら、せっかくだし映画でも見てくか」

「え、映画!?」


「うん映画」


 駅ビル最上階にある映画館なら、遠くないし他の店にも行きやすい。上映まで待ち時間ができても潰せるので、悪くない提案だと思う。


「トム先輩の見たいものがあるのか?」

「いや、ないけど。ふらっと行って面白そうなのがあれば、どうよ」


「おおっ。大人っぽい」


 からかってんのか。と思ったが、相変わらず謎の敬意が込められた視線。やめろその目。自分がちっぽけな人間だと自覚してしまう。

 俺みたいなひねくれ者だと、蔑まれるより尊敬されるほうがダメージでかいから。


「……行く?」

「行く!」


「んじゃ」


 というわけで映画館。

 一番上映が近かった洋画が面白そうだったので、チケットを即購入。ポップコーンと飲み物を装備して、シアターへ。


 麻薬を運ぶ老人の話で、実話がベースになっているらしかった。音の迫力やストーリー運びはさすが洋画で、途中にちょっと性的なシーンも挟みつつ上映終了。

 洋画ってどこかにベッドシーンがあるよね。うっかり忘れてた。


 まあでも、そこが主軸ではないし大丈夫だよな。気にしてないよな。これってセクハラに入りますか教えておまわりさん!


 心の中で葛藤した結果、まともに感想を聞けたのは映画館を出てしばらくしてからだった。


「……どうだった」

「とても、難しい話だった」


 真剣な顔で、宮野は呟く。ずっと静かだったのは、考え事をしていたかららしい。


「なにが難しかった?」

「麻薬運びになった気持ちが、ボクにはわかってしまうから」


「犯罪者に?」

「法は犯さないかもしれない。でもそれは、法を犯さないだけで……。過ちのすべてが、法律に書いてあるわけじゃない。みたいなことを、ボクは個人的に思ったのだがそういうトム先輩はどうなのだ! さっきからボクにだけ喋らせて!」


 後半は尋常じゃないくらいの早口で一気にまくしたてる。顔を真っ赤にして唇を尖らせて、ああ。宮野も恥ずかしがるんだなとかぼんやり思う。


「わりと夢中で語ってたじゃん」

「語るとか言うな! ああああ恥ずかしい。なんでボクはこんな、こんなこと言わないのに……」


「いいじゃん。語ってなにが悪い」


 その言葉は、俺らしくなく簡単に。用意されていたように出てきた。

 ずっと思っていたからかもしれない。宮野に対して漠然と抱えていたものが、タイミングを見計らって形になった。


「思ったこと言ってくれなきゃ、誰もお前と話せないだろ」

「――っ」


 ぱさりと、宮野の持っていたパンフレットが落ちる。しゃがんでそれを拾って、立ち尽くした少女に手渡す。


「好きなものとか感動したこと、一生懸命語ってこそオタクだろ。な」


 少し怯んだように一歩後ずさると、宮野は軽く目を逸らした。珍しい反応。いつもの眼力は弱まって、迷いが全面に出ている。


「……トム先輩は、やっぱり大人だな」

「三年早く生まれただけだよ」


「大きいよ。この三年は」


 彼女の立場に立ってみれば、俺はよっぽど大人に見えているのだろう。

 高校と大学。知らない世界を一つ、俺は知っている。俺だって社会人のマヤさんは大人に見える。


 けど、宮野にはその差が大したものじゃないと気がついてほしい。

 同じものを見ても同じ感想にならないこと、同じ場所にいても同じ趣味を持たないこと、みんなと違う道を歩んできたこと。それが当たり前だと認められれば、きっと少しは生きやすくなるから。


 なんて、お節介が過ぎるか。

 踏み込みすぎたかと後悔して、けれどもう遅い。宮野はじっと俯いて、なにかを懸命に考えていた。


 考えて考えて、それが間違った道だとしても彼女はいつも真っ直ぐだ。ハーレムを作るなんて馬鹿げたことを言って、だけど一生懸命で、少し仲良くなれて嬉しそうで。

 その裏で、いつもこうやって考えてきたのだろう。


 そのひたむきさが、報われてほしいと思う。


 真っ直ぐに生きようとする人が。

 光を求めて努力する人が。

 好きなものを思いっきり好きだと言える人が。

 道に迷った人を優しく迎えてくれる人が。


 正しく報われてほしいと思う。


「……トム先輩。ボクはあなたに、迷惑をかけてもいいんだろうか」


 なにを今更。その覚悟なら、随分前からできている。

 だから俺はいつものように、肩をすくめて冗談めかす。


「役に立たなくても幻滅すんなよ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、テーマパークというよりは、グッズショップだったか。 他人は助けようとするのに、自分を助けようとはしない感じだなあ。
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