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2話 子供と大人

 雑草をあらかた抜いた庭に、タイルを等間隔で敷いていく。途中で宮野さんが軍手を持ってきてくれたので、装備して作業を継続。

 だいぶ過酷な労働だったので、それは俺とマヤさんで行った。不思議なことに、マヤさんの方が楽そうだった。なんでだろうね。考えたくありません。


 だいたい二十分くらいかかっただろうか。向きを整えたところで、一段落。


「うん。いい感じね。もうちょっといける?」

「いいですけど、なにするんですか」


「砂利をまくのよ。タイルの間に、それから」

「それから?」


「レンガを組み上げるのよ。コの字型に」


 ジェスチャーしてくれるマヤさん。なんとなく想像してみる。

 ……もしや。


「キャンプ場の炊事場にある火起こすところみたいなのですか?」

「正解だけど遠いわね。なんか遠いのよね」


 首を捻ると、模範解答を示してくれる。


「その上に金網を置いて、BBQするのよ」

「じょ、上流階級のやることじゃないですか!」


「私は上流階級ざます」

「その語尾似合いますね」


「ぶっ飛ばすわよ」


 一秒で両手を挙げて背筋を伸ばしました。

 動くな、手を上げろ。は英語で「freeze!」。凍れって意味らしい。だからなんだ。なんだろうね。


「……で、そのBBQエリアを作って楽しむわけですか」

「外で肉を焼いて食べる。それ以上の幸せがある?」


「個人差あると思います。インドア派としては」

「真広って流れないわよねえ」


「ちなみに興味は大ありです。精神年齢ガキなんでワクワク止まらないっす」


 けらけら笑って、砂利の入った袋を引きずるマヤさん。


「じゃ、ちゃっちゃとやりましょ」





 複雑な作業はなく、二人で取りかかったおかげで昼前には作業が完了した。あとは折りたたみの椅子を並べて、火を起こせばいつでもBBQできる。


「――はー。これで夢が叶ったわ。ありがとね」

「まだ早いですよマヤさん。そういうのは……肉、食ってからにしましょうよ」


「ふっ。それもそうね」


 なんとなく任侠映画みたいな雰囲気で言うと、煙草を吐くような真似をしてくれた。気分は雨の降るスラム街。銃弾に倒れたマヤさんに声を掛ける下っ端の気分だ。

 ノリのいいお姉さんっていいよね。


「こんな早く終わるなら、今日やればよかったですね」

「今日はしないわよ。まだ炭がないし」


「ああ。そうなんですね。それは残念だ」


 疲労をのせた息を吐く。ぼんやりしていると、質問を投げられた。


「ねえ、真広。シェアハウスでの生活はどう?」

「最高っすよ」


 軽く返すと、同じくらい軽い笑い声が返ってきた。

 それからすっと落ち着いた表情になって、一瞬だけ沈黙があって、


「あの子達のこと、改めてお願いするわ」


 真面目な顔で、マヤさんは言った。

 こういう空気は苦手だ。つい、手で頬をかいてしまう。


「……俺が楽しんでるだけですけどね」

「いいじゃない。それで」


「いいんですかね。だいぶ俺、子供っぽいですけど」

「大人になるって、子供を辞めることじゃないのよ。そこ、わかってる?」


 面白そうに問いかけてくる。その表情は、俺よりずっと多くの人と向き合って、いろんな苦労を乗り越えた人にしかできないのだろう。


「言ってる意味はわかります。ただ、実感がない」

「そのうちわかるわ」


 軍手を外したのは、会話を切る合図だ。マヤさんに続いて、家の中に戻る。

 改めて考えるのは、この空間での自分の立ち位置。


 マヤさんから見れば俺は子供で、だけどあとのメンバー。古河を除けば俺は十分な大人なわけで。

 子供らしく一緒に歩けているだろうか。

 大人らしく振る舞えているだろうか。


 考えたところで答えは出ず、すぐに思考を打ち切った。

 シリアスになるほど、危機が迫っているわけじゃない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初、これはバーベキューだと思ったのよ。でも、用意されているのがレンガでなくタイルだったので、何をするのかと思った。うーん、レンガの下にはタイル引く必要があるのか…知らなかった。 もっとも、…
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