2話 子供と大人
雑草をあらかた抜いた庭に、タイルを等間隔で敷いていく。途中で宮野さんが軍手を持ってきてくれたので、装備して作業を継続。
だいぶ過酷な労働だったので、それは俺とマヤさんで行った。不思議なことに、マヤさんの方が楽そうだった。なんでだろうね。考えたくありません。
だいたい二十分くらいかかっただろうか。向きを整えたところで、一段落。
「うん。いい感じね。もうちょっといける?」
「いいですけど、なにするんですか」
「砂利をまくのよ。タイルの間に、それから」
「それから?」
「レンガを組み上げるのよ。コの字型に」
ジェスチャーしてくれるマヤさん。なんとなく想像してみる。
……もしや。
「キャンプ場の炊事場にある火起こすところみたいなのですか?」
「正解だけど遠いわね。なんか遠いのよね」
首を捻ると、模範解答を示してくれる。
「その上に金網を置いて、BBQするのよ」
「じょ、上流階級のやることじゃないですか!」
「私は上流階級ざます」
「その語尾似合いますね」
「ぶっ飛ばすわよ」
一秒で両手を挙げて背筋を伸ばしました。
動くな、手を上げろ。は英語で「freeze!」。凍れって意味らしい。だからなんだ。なんだろうね。
「……で、そのBBQエリアを作って楽しむわけですか」
「外で肉を焼いて食べる。それ以上の幸せがある?」
「個人差あると思います。インドア派としては」
「真広って流れないわよねえ」
「ちなみに興味は大ありです。精神年齢ガキなんでワクワク止まらないっす」
けらけら笑って、砂利の入った袋を引きずるマヤさん。
「じゃ、ちゃっちゃとやりましょ」
◇
複雑な作業はなく、二人で取りかかったおかげで昼前には作業が完了した。あとは折りたたみの椅子を並べて、火を起こせばいつでもBBQできる。
「――はー。これで夢が叶ったわ。ありがとね」
「まだ早いですよマヤさん。そういうのは……肉、食ってからにしましょうよ」
「ふっ。それもそうね」
なんとなく任侠映画みたいな雰囲気で言うと、煙草を吐くような真似をしてくれた。気分は雨の降るスラム街。銃弾に倒れたマヤさんに声を掛ける下っ端の気分だ。
ノリのいいお姉さんっていいよね。
「こんな早く終わるなら、今日やればよかったですね」
「今日はしないわよ。まだ炭がないし」
「ああ。そうなんですね。それは残念だ」
疲労をのせた息を吐く。ぼんやりしていると、質問を投げられた。
「ねえ、真広。シェアハウスでの生活はどう?」
「最高っすよ」
軽く返すと、同じくらい軽い笑い声が返ってきた。
それからすっと落ち着いた表情になって、一瞬だけ沈黙があって、
「あの子達のこと、改めてお願いするわ」
真面目な顔で、マヤさんは言った。
こういう空気は苦手だ。つい、手で頬をかいてしまう。
「……俺が楽しんでるだけですけどね」
「いいじゃない。それで」
「いいんですかね。だいぶ俺、子供っぽいですけど」
「大人になるって、子供を辞めることじゃないのよ。そこ、わかってる?」
面白そうに問いかけてくる。その表情は、俺よりずっと多くの人と向き合って、いろんな苦労を乗り越えた人にしかできないのだろう。
「言ってる意味はわかります。ただ、実感がない」
「そのうちわかるわ」
軍手を外したのは、会話を切る合図だ。マヤさんに続いて、家の中に戻る。
改めて考えるのは、この空間での自分の立ち位置。
マヤさんから見れば俺は子供で、だけどあとのメンバー。古河を除けば俺は十分な大人なわけで。
子供らしく一緒に歩けているだろうか。
大人らしく振る舞えているだろうか。
考えたところで答えは出ず、すぐに思考を打ち切った。
シリアスになるほど、危機が迫っているわけじゃない。




