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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 3章 腹ペコJDはわかりたい
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7話 イベントにはフラグが必要。そう思っていませんか?

 長谷との接触でなにかが変わるほど、人生はアクロバティックにできちゃいない。


 俺は相変わらず俺で、大学ではソロが多く、サークルには所属せず、バイトは七瀬さんの家庭教師だけ。引きこもりゲーマーであることを誇りとし、二次元JSに月一回の課金を行う。

 その、はずだったのだが。







(じーっ……ちらっ、ちらっ)


 リビングでだらけていると、こっちを確認してくる人間が一名。


 視線を感じるようになったのは、落ち着いた日々が戻ってすぐのことだった。

 俺に安寧の時はないのか?


 問いただしてみようかと思ったが、本人は気がつかれないようにしているらしいし。しばらくは黙っている。

 視線の主は、我らが穂村荘のママこと古河水希。じゃあマヤさんはなにかっていうと、なんだろうね。長女?


 ママさんはここ最近、レシピ本を眺めるフリをしながらこっちを見てくる。料理をしながら見てくる。ちらっと視線を向けると目が合う。

 なにこの、やっすい恋愛テストで両想いになりそうな状態は。居心地悪いんですけど。


 どうせ「れ」の字で始まることじゃないんだろうけどさ。


 目を見ればわかる。あれは観察する人の目だ。理系特有の、対象からデータを抜き取らんとする集中。

 なにを測ろうとしているのだろう。もしかして、俺の一日の消費エネルギーとかか? それを元にして料理を作ろうとしてるのか?


 ……ありえる。普通に考えたらアホかと思うようなことだけど、むしろだからこそやりかねない。この家の住人はそういうところがあるよね。


 まあ実際、観察されるだけで実害はないし。むしろ標本としての役割を真っ当するために、気にしないフリを続行。

 していた。のだが、


「水希さん、どうしてそんなにトム先輩を注視しているのだ?」


 乱入者によって均衡が崩れる。


 そらそうですよね。同居人が男のことガン見してたら気になるわ。宮野さんに非はない。

 ……の、だが。


「しー。今、気がつかれないようにしてるの」

「お、そうなのか。ふふふーん。なんでもなふふーん」


 もしかして、まだ気がついてないと思ってる!?

 っつうか宮野さんの誤魔化しかたなにそれ!? 鼻歌下手ッ!


 あまりの気まずさに言い出せなくなる俺。気がつかれていないと思っている古河。誤魔化そうと鼻歌を歌う宮野さん。

 …………なにこの状況。


 スマホ見てるだけの俺を二人がかりで観察してくるんだけど。なに? なに? 俺ってそんなに珍しい生き物だっけ?


 状況の打開を求めて、心の中で祈る。

 そこへ入ってくる第三の人物。


「――あ、皆さんこんにちは」


 七瀬さんはこっちに一礼。二人に一礼。

 それから首を傾げると、さっと宮野さんが近づいて状況を説明。ふむふむと頷く七瀬さん。


 結果。

 俺を観察する人が三人になりました。


 …………なぜだ。


(じー)

(じー)

(じー)


 ダイニングテーブルに腰掛けた三人から、思いっきり視線を感じる。

 こうなってくると不思議なことに、なにも悪いことをしていないのに罪悪感が湧いてくる。こうして冤罪は作られるのか。気分は取調室に押し込まれた気弱な市民A。


 なんだこれ。裁き? 裁きを下す準備をしてるの?


 許してもらうには土下座が必要かもしれん。手に持ったスマホは、無意識のうちに『謝罪 奥義』で検索している。『謝罪のO様』という映画がでてきた。もうだめかもしれない。


 本気で怖くなってきたので、すっと立ち上がって忍のように一階を後にする。背中に突き刺さった視線は、ドアを閉じたところで感じなくなった。


「……なんだったんだ」


 震えながらゲームをやって、視線を感じながら夕飯を食べて、震えながらゲームをして、震えながら寝て――。




 それから更に、数日後。







「ねえねえ戸村くん。今度のお休み、一緒にお出かけしようよ」


 立てた覚えのないフラグから、イベントが発生しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古河さんの周りの男の子って確かに主人公くらいしかいなそうだけど… 主人公の好きな(食べ)ものがどんなものか探していたのかな
[一言] 何を求めて観察しているのか。どう調理したら美味しくなるだろうか、とか? /w 美味しくいただかれない様に気を付けて。
感想一覧
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