表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 3章 腹ペコJDはわかりたい
37/173

2話 真広おじさんのアドバイス

 その昔、といってもほんの1年前まで。

 俺はいつか、誰かと結婚して、家庭を築いて、子供を持つのだと思っていた。そういう人生が普通で、自分にはそれができると思っていた。


 間違いだった。


 自分という人間は、普通からはズレている。他人と馴染める器用さもなく、臨機応変に対応する体力もない。たとえば付き合ったとして、誰かのために時間を割こうとも思えない気がする。


 だから。

 するべきとかそういう次元ではなく。

 できない人間だっているのだと思う。


「あくまで俺の感覚だけど」


 誰かと手を取って生きてゆくのは美しいことだと思う。そうやって俺が生まれたことも知っている。そのことには感謝している。だけど。


「俺が結婚しなかったくらいで、世の中そんなに変わりゃしない。だから、判断の基準は自分に置けばいいと思う。これが正しいとは限らないけどな」

「戸村くんは……一人でいても不安じゃないの?」


「不安、か」


 久しく考えていなかったことだ。

 クリスマスの孤独は不安そのもので、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。目の前に真っ黒な壁があって、その先を閉ざされたような。そんな気がした。


 いつからだろう。その壁を意識しなくなったのは。


「そうだよな。俺たちはいつまでも、今の場所にいるわけじゃない」


 忘れているだけだ。

 大きすぎる壁に背を預けて、一休みして、だから視界に入っていないだけ。

 あの家から外に出て、また一人の生活。おかえりのない部屋の冷たさを知っている。


 だからといって、俺の意見は変わらないけれど。


「じゃあ、会ってみればいいんじゃないか?」


 なんとなく、古河は背中を押されるのを待っている気がしたから、そう言った。


「……うん。そうしてみようかな」


 躊躇いながらも、彼女は頷いた。

 瞳から迷いは消えていない。迷うなら、行ってみればいい。


「ただ、一つだけ注意はさせてくれ」

「なに?」


「連絡先だけは軽率に教えないほうがいい。簡単に繋がれる時代だからこそ、真広おじさんは注意してほしいと思うぞ」


 手でぐーをつくって、冗談っぽく言ってみる。


 これに関してはけっこう真剣に思っていることだ。

 男というのは気になる女子と連絡を取りたがる。そして古河は可愛いし、料理もできる。天然っぽいのも男的にはポイント高い。


 だから、迫られると断り切れなくて大変な思いをするんじゃないかなみたいな……あれ俺、この心配の仕方けっこう気持ち悪くない?

 真広おじさんただの勘違いストーカーでは?


 いやいや。これは一同居人として、純粋に古河を不安に思ってのことだから。


「わかった。絶対に交換しないね」

「…………うっす」


 なんかものっすごい信頼した顔で言われてしまった。

 今更取り下げるわけにもいかず、ハエみたいな返事をしてしまう。


 なんかごめんな。相手の男さん。







 ということがあっての、数日後の土曜日。

 バイトの友達と紹介される男と、古河の三人でご飯に行くらしい。


 玄関で見送った後は、なにもないただの一日。マヤさんは昼過ぎまで寝るので、起きているのは三人。

 俺と七瀬さんと宮野さん。


 なんとなくリビングに集まって、ソファに腰掛ける。


「み、水希さんが……」

「ど、どうしましょう。彼氏ができたらどうしましょう先輩!」

「いや俺に言われても」


 なぜかは知らんけど、二人揃ってわなわな震えていた。


「どうしてトム先輩は止めなかったんだ! どこの馬の骨とも知らん男と会わせるなんて言語道断! たとえその命を散らしてでも止めるべきだっただろう!」

「俺の役割、重すぎないか?」


 自分のハーレムなら自分で守ってほしい。

 ハーレムクイーンは今日もだらしなかった。


「先輩は知らないんです……。彼氏のできた女の子って、その人色に染まってどんどん冷たくなって、男の人としか関わらなくなっていくんですよ……」

「それは一部のメンヘラさんだから。世間一般の常識じゃないからね」


 七瀬さん。中学生にして見てきたものが重すぎる。


「ほらほら。みんな自分のやることに戻った戻った」


 手を叩いて解散の合図。

 だが、まだ落ち着かない様子の二人。


 …………ううむ。

 正直言うと、俺も落ち着かないことは落ち着かないのだが。


 ここで「後をつけてみよう!」となるほどの行動力もない。そうしないだけの常識も持っている。残念ながら。

 ならば。


「――せっかくだし、三人で料理でもする?」


 いつもは古河専用のキッチンだが、今日は空いている。

 昼飯を買いに行ってもいいけど、たまには自炊も悪くない。


「料理か……うむ。やはり水希さんを取り戻すには料理しかないな!」

「そんな意図はないが」


「なに!? 無意識とは、やはりトム先輩は偉大だな。そして手強い」

「もう好きにすればいいよ」


 つらつら歩いて冷蔵庫を開ける。買い出しはよく行っているので、中身はだいたい把握していた。


「先輩って料理できるんですか?」

「『可能』ではある」


「すごく不安です」

「七瀬さんは?」


「で、できますよ。あ、あたりまえじゃないですか! ……ってなんで二人とも優しい顔をするんですか!」


 宮野さんとアイコンタクトを取って、頷く。


「包丁は俺がやるから、火は任せた」

「了解した。師匠」


「七瀬さんには盛り付けをお願いしようかな」

「バカにしないでください! 料理くらいできますもん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハーレムクイーンロマンス/w まだあるのかな? さて、実際にあって見たら、何を考えるのだろう。もし、本当に付き合うとしたら、シェアハウスにいる、というわけには行かなくなりそうだなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ