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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 3章 腹ペコJDはわかりたい
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1話 恋愛マスター(ゲームでは)

「ねえねえ戸村くん。恋ってどんな感情?」


 安定がぶっ壊れるときは唐突だ。

 この家に来てから何度目かわからない衝撃にもいい加減慣れてきた。


 床に落ちた本を拾って、ダイニングテーブルに座った古河へ答える。


「ませた小学生みたいな質問するじゃん」


 俺はリビングのソファで、少しだけ距離がある。至近距離じゃなくてよかった。目の前で言われたらドキッとしてたぜ。

 身体の距離は心の距離って怪しいウェブサイトにも書いてあった。


「好きな人でもできたのか? 俺?」

「違うよ?」


「……まあ、はい。ごめんなさい冗談です」


 知ってたけど、あっけらかんと否定されるとくるものがあるよね。


「バイトの友達がね、『今度いい人を紹介してあげるよ』って言ってきて」

「店じゃなくて?」


「人だったんだよねぇ」

「ふうん」


 古河に男を紹介……ねえ。


「大前提の話なんだけどさ、古河って彼氏欲しいとか思うの?」

「思わないよ」


「すげえ即答するじゃん」


 なんの迷いもなかった。


「じゃあ断ればいいだろ。どうせ付き合わないなら、会わない方が楽だ」

「うーん……」


 柄にもなく腕組みして悩んでいた。どうやら、想像していたより深い問題のようだ。


「俺以外にも聞いてみたらどうだ?」

「聞いてみたよ」


「俺が最後っすか」


 なんだろうね。ちょいちょい心を抉ってくるよね。

 別に真っ先に相談してほしいとかじゃないんだけどね!


 とふざけてみたものの。

 実際問題、JC、JK、OLで解決しなかったのはけっこう痛い。七瀬さんと宮野さんはなんとなく仕方がない気がする(失礼)けど、マヤさん……。


 それで俺、か。

 戸村真広くんねえ……。君、恋愛とかわかるの? わからないでしょ? どーせゲーム楽ちぃぃいいみたいな人生送ってるんでしょ?

 ――はい。


 全くもって戦力になれる要素がなかった。すまん古河。俺じゃお前の力にはなれない……っ。


「……このままじゃ晩ご飯の献立考えられないよ」

「恋愛のことなら俺に任せろ!」


 訂正。

 力になれないんじゃない。

 力になるんだ。







 緊急会議の開催場所はファミレス。

 家だと七瀬さんの勉強の邪魔になりかねないし、宮野さんが邪魔になりかねない。


 軽めのスイーツを頼んで、聞きの姿勢に入る。任せてくれ。俺が恋愛マスター。


「戸村くんって、こういうの詳しいの?」

「もちろん。ゲームで恋愛イベントは避けられないからな」


「頼りになるねえ」

「…………はい」


 そこはツッコんでほしかったんだけど、古河は心底安心した顔をしている。だめだ俺の良心が壊れる。

 まあでも、恋愛観なんて人それぞれだし。


 うん。大丈夫だ!


 相手は初恋のまだ来ていない大学生。言うなればレベル1。恐れることなどなにもない。


「とはいえ、古河にその気がないなら言うことはそんなにないんだけどな」


 断ればいいというか、断ったほうがいいと思う。

 ただ、この機会をふいにすることで後悔が残るなら――話は変わってくるというだけで。


 レアチーズケーキを食べつつ、ぼんやり天井を眺める。なんとなく浮かんできたことを、そのまま口に出してみた。


「もしかしてだけどさ、恋愛のこと必修科目だと思ってる?」


 やりたいからやる。ではなくて。

 いつかやらなければならないもの。そう考えているのではないだろうか。


 そしてその予想は、当たっていた。

 心底不思議そうな顔をして、古河は首を傾げる。


「違うの?」

「そこらへんの感覚は人によるだろうけどさ」


 カランと音を立てて、グラスの氷が傾く。


「俺は別に、結婚とかしなくてもいいと思ってるよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ついにJD編突入ですか。 ただね。恋愛と結婚は別なものだから、もしどちらかが必修でも、他方は選択科目でありうる。一方が選択科目であったとしても、他方が必修でない事にはならない。 少子化とか…
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