表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 2章 秀才JKは攻略したい
34/173

12話 戸村真広のHPゲージ

 というわけで……順位確定。

 一位:七瀬さん 二位:マヤさん 三位:古河 四位:宮野さん 五位:俺


 画面には結果が華々しく表示されていて、それぞれがそれぞれの表情で見つめている。


「俺は楽しかったけど、みんなはどうだった?」


 問いを投げると、視線が七瀬さんに集まる。この中で一番小さな少女はやや戸惑ったふうだが、すぐに破顔した。


「楽しかったですよ。ありがとうございました」

「よかった。マヤさんは?」


「悔しいわね」

「二位でしょ。満足してくださいよ」


「私は満足だよ。こういうのも楽しいんだね」

「たまにはな」


 親指を立てる古河に、肩をすくめて笑いかける。


「それで、……宮野さんは?」

「ボクは………………ボクは、…………」


 眼鏡の奥の瞳は、ぐっとなにかの感情を押し殺しているようだ。こうやって関わりたい人と関わって、なにか感じてくれただろうか。


 誰かと関わること。それ自体は、別に難しいことじゃない。

 声を掛ければ応じてくれる。接すれば返事はある。

 続けることは難しいと思うけれど、はじめることは容易だ。ほんの少しの勇気があればいい。


 ……俺は、まあな。そんなこと言えた立場じゃないかもしれないけどさ。


「ボクは…………六風堂のゼリーが食べられないのだろうか!」


「はぁ?」


 呆けた声が出てしまった。

 なに言ってんのこの子。


「いやだってそうだろう! 三位までしかゼリーはない。ボクは四位だ。ギリギリボーダーの下。トム先輩!」

「あー、うん。そうだな」


「なぜ、なぜ……うぅぁぁっ」


 頭を抱えて、小さく呻き声。苦しいか少女よ。これが社会だ。これが戦いだ。ゲームをゲームだと思って臨んだお前の甘さが敗因だ。(最下位より)

 ――と、なるわけもなく。


「悠くん悠くん。私のちょっとあげるよ」

「水希さん!?」


「こっちもいいわよ。甘いものは少しでいい派だから」

「マヤさん!」


 ベッタベタに甘やかされるわけだ。

 そりゃそうだわな。あの二人からすれば、女子高生だって年下。可愛い妹分みたいなもんだ。


「どれ。じゃあ配るから、順番に受け取って」


 袋を五つ取り出して渡していく。

 そんなにお金をかけたわけじゃないけど、お菓子だったりお茶が入っている。あとはちょっといいティッシュとか。

 そこそこ喜んでくれれば、それでいい。


「先輩先輩」

「ん? どうした。異物混入か」


 七瀬さんは目を丸くして、くすっと笑う。小さく首を振って、それからやや視線を落とす。


「してませんよ。……ええっとですね、その、実は先輩って最下位だったじゃないですか」

「傷口を抉りにきてる?」


「そんなことしません!」


 ばっと顔をあげる。七瀬さんは、顔を真っ赤にしていた。


「わ、私のゼリーを、と、特別にちょっとわけてあげましょうか……?」


 最初は勢いよく。だがどんどん勢いを失って、最後には囁くような声になる。

 その姿に、思わず笑ってしまった。胸が温かくなって、自然に唇が綻んで、小さく首を横に振った。


「ありがとう。けど、俺はいいよ。味見って言って食べてるし」

「「「「ええっ!?」」」」


 嘘だけど。

 びっくりした顔の彼女たちを見ていると、ますます笑えてきた。


「大人はずるいんですよ」

「真広ぉ。あんたも子供のくせに」


「じゃあ、悪ガキのつまみ食いってことで」


 適当な冗談を舌の上で転がして、ゲーム機を片付ける。


「それじゃ、今日はこのへんで。みんなお疲れさま」


 リビングを後にして、自分の部屋へ。

 ゲーム機を置いて、再びセットすることなくベッドに倒れ込んだ。


 枕に突っ伏した顔が重たい。眠たいわけじゃないけど、動けそうにない。肉体の疲労とは別種の、精神の疲れ。

 楽しかったけど……限界みたいだ。







「戸村くん。この後のご飯は――」


 去って行く真広の背中にかけようとした声を、マヤが手で止める。


「ちょっと疲れてるんでしょ。取っておいてあげられる?」

「え、……うん。マヤちゃんが言うなら」


 不思議そうにする少女たちの中心で、マヤは小さく吐息をこぼす。


 ――俺、人と関わりすぎると疲れちゃうんですよね。


 入居前、何度か真広と話をした。女性ばかりのシェアハウスに招く。ということで、より深く彼のことを理解しておきたいと思ったからだ。

 真広は今と同じように、どことなく無感動で妙に穏やかな表情をしていた。


 なにかを諦めた人特有の、空っぽで虚ろな微笑み。


「楽しいこともストレスになる。あの子はきっと、人一倍そういう体質なのよ。だから、そっとしておいてあげて」


 この家には、なにかを抱えた人が集まる。明るく振る舞っても、強がっていても、あるいは爽やかに前を向いていても。

 そして、痛みなんて感じていないように佇んでいても。


 誰もがどこかに安らぎを求めている。

 そういう人が安心できる場所に、この家がなればいいと思う。


「元気になったら、みんなでお礼を言いましょ。わかった?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 随分頑張ってあげたんだなあ。 早めの復活を祈る。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ