9話 ゲーム大会
諸々の準備を整え、土曜日。昼の二時にだらっと集合して、リビングに座る。五人が一箇所にいる光景はまだ慣れない。
「はいそれでは、第一回ゲーム大会を開始します。はくしゅー」
だらっと開会の挨拶をすると、三人からガチ拍手がきた。恥ずかしがって抑えてるのは七瀬さんで、「あ、あれ? そんなに本気なんですか?」と驚いている。うん。それは俺も驚いてる。
「スイーツスイーツスイーツスイーツ…………」
「見せ場を作る見せ場を作る見せ場を作る……」
「ボンビーボンビーボンビーボンビー…………」
なんで邪神が三柱もいるんだよこの空間。
最後の一人だけ明らかに殺意高いし。
ま、遊びだからこそ真剣にやったほうが楽しいっていうのはあるし。そういう意味では悪くないのかもしれない。
「順位に応じて景品も用意したから、そこもお楽しみに」
ばっと四人の視線が集まる。
「先輩。景品ってなんですか」
「詳しくは終わってからね」
はぐらかそうとするが、古河が入ってくる。そういえば、釣るために教えていたっけ。
「はい戸村君! 六風堂のゼリーは?」
「あるぞ」
ぎらっと四人の目が光った。今度は七瀬さんも。
六風堂とはこの近くにある菓子店なのだが、そこのゼリーは入手困難。お値段もそこそこ。味は一度食べたら忘れられないという。
今回は暇人大学生の特権を使って入手したが、普通ならまずお目にかかれない。
「さっさと始めるわよ。大人の力、見せてやるわ」
パキパキ指を鳴らすマヤさん。見た目がもう教育に悪い。リアルファイトしたら負ける気がする。
「草加煎餅はおさえておきたいよね……」
各地の名産に食欲を滾らせる古河。さっそく脱線しているな。
「トム先輩から金を巻き上げる……そうすればボクはヒーロー」
ぶつぶつ言ってるそれ、俺に聞かれて大丈夫な計画か?
ただ一人ぎゅっと両手を握って画面を見つめる七瀬さんが癒やしだ。こんな汚れた大人たちにはならないでほしい。
「なんですか先輩?」
「いやぁ。社会の縮図だなぁと思って」
「意味がわからないです」
「それも含めてね」
コントローラーを持って、モード選択。
「年数は……とりあえず五年くらいで」
「真広。十五年よ」
「ガチ勢は下がっててください」
却下すると、マヤさんはぶーっと唇を尖らせた。ガキか。
いきなりそんなにやったら脱落者がでるだろうが。
いろいろ説明もしなきゃいけないし、二時間前後で終わるのがちょうどいいだろう。ハマったらハマったで、もう一回やればいいだけだ。
「はい。じゃあ次は名前決めな」
ゲームをやっていれば、こういう場面は多い。だからある程度テンプレの名前というものがあって、手が勝手に動く。『パララ』と。
「なんですかその名前」
「あ」
ほとんど無意識のうちに確定して、取り返しのつかない段階になってから気がつく。実名でいいじゃん。
「あの、いや、ネットとかで使うための名前なんだけど……」
「『パララ』ですか。先輩は『パララ』って呼ばれたいんですか?」
なにこの後輩ちゃん、すっごい澄んだ目で嫌なとこ突いてくるじゃん。ダメだよそういうの。ネットにいる人に名前の由来とか聞いたら。なんか恥ずかしくなっちゃうから。
「ほら、俺の名前って『真広』じゃん。だから小さい頃は『まひ』って呼ばれてたんだけど、そこから『麻痺』になって、麻痺は英語でパラライズだから略して『パララ』みたいな……」
「けっこう移り変わってるわね」
「うむ。奈良平安時代の遷都に近いものを感じる。トム先輩は風流なのだな」
「デンキウナギって食べれるのかな?」
とりあえずバカを二人あぶり出せた。
「まひ先輩……まひ、まひくん? ううん」
七瀬さんは腕組みして考え事。いったいなにを考えているのやら。邪魔しないように、コントローラーはマヤさんへ。
ちなみにこのゲーム、つけた名前の最後に役職を加えられる。俺はデフォルトの社長。
マヤさんは真っ先にそこをいじった。部長。ほう。
「こういうのってやっぱり、なりたいものを映し出すわよねえ」
口元を小さく歪めながら、漢字を入力。『人事部長』
「マヤさん…………」
大人って怖い。
なにかを悟った宮野さんがちらっと見てきた。あまり触れたくないので、小さく首を横に振る。まだ君には早い。たぶん、俺にも早い。
宮野さんは『ゆう部長』で、古河は『みずき課長』。最後に七瀬さんが『なな社長』にしてゲームスタート。
……あの、これって始めてもいいやつですかね?