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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 2章 秀才JKは攻略したい
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8話 悪い大人

 大学の帰りに電気屋に寄って、目的の品を購入する。金銭的な余裕は、七瀬さんの講師になったことで生まれた。ちょっと本人には言えない額を受け取っているので、面と向かって言うことはないが。


 古河から頼まれていた買い物を済ませて、マヤさんにメールを送る。

 あとの問題は、ちゃんと全員集まるかどうか――







「ゲーム大会……ですか?」


 俺からの提案に、七瀬さんは怪訝な表情をする。


「そう。今度の土曜日にやりたいんだけど、どうかな」

「あんまり得意じゃないですけど」


「すごろくみたいなのだから、得意不得意は影響しないと思うよ」

「そうなんですか?」


「うん。強制ってわけじゃないけど、一緒にできたら嬉しいよ」

「そ、……そうですね。どうしてもって言うなら……いいですけど」


「いや、どうしてもとは言えないかな」

「行きますってば! わかってますよね!?」


 お決まりのやり取りをしてから、手をぐっと握って、力強く頷いてくれる。

 一人目、確保。



――――



 古河を誘う手段は、一番頭を悩ませた。なんだかんだ、あいつの趣味とかわからないし。飯? 全部飯なのかな? だとしたら、ゲームへの興味は皆無だろう。


 だからこそ、ゲーム大会なのだ。


「土曜日に景品つきでゲームやりたいんだけど、一緒にどうだ?」


 景品で釣る。これしかない。


「うーん。私、ゲームやらないからなぁ」

「三位以上なら六風堂のフルーツゼリー」


「将来の夢はプロゲーマーです!」


 めちゃくちゃ簡単に引き込めた。



――――



 マヤさんからの返信は、1時間後に返ってきた。


『「たろ鉄」で勝負しようなんていい度胸ね。蹂躙してあげる』


 とのことだった。好きなゲームだったらしい。


 マヤさんに関しては、シェアハウスを開くくらいだから参加してくれると踏んでいたが。ここまで積極的だとは思わなかった。嬉しい誤算だ。







 想像よりもずっと順調に四人の参加者を集め、最後の一人を誘うためにドアをノックする。


「戸村です」

「ああ……トム先輩か。少し待ってくれ。今、靴下を脱ぐから」


「なんの報告? なんのアピールなのそれ?」

「喜ぶかなと思って」


「喜ぶか! どんな変態を想定してるんだよ!」


 ひどい風評被害だ。そんなものがポリスメンに伝わったら一発でお縄になってしまう。事実無根とか関係なく。

 まったく。ふざけるにしてもたちが悪い。


 だが、ドアの向こうから返ってきたのはしゅんとした声だった。


「そうか……そうだな。ボクでは喜ばないよな」


 きぃっと寂しげな音を立てて開く扉。中から出てきた短めのボブカットは、赤いリボンを結んだり、カチューシャをのっけたり、編み込んだり……お祭りのようになっていた。

 ついでに顔も、濃すぎるファンデーションと口裂け女のような口紅、長すぎるつけまつげ……うん。最近の女子高生ではこれが流行ってるのかな。


「変だろう?」

「まあ、ビックリはした。どうしたんだ」


「女の子ごっこ。とでも言えばいいだろうか」

「と、言うと?」


 顔を上げた宮野さんは唇を尖らせて、両手で髪の毛を掴むとツインテールのようにぴょこっと分ける。長さが足りていないけど。


「形から入ればなにかわかるかと思ったのだ」

「ほう。結果は?」


「なにもわからなかった……」


 ちょっと見ない間に大いに迷走しているようだ。


「そっか。ところで、土曜日にみんなでゲームしないか?」

「みんな? みんなとは、オンライン上に存在する顔も名前も知らぬ『みんな』か?」


「そんな切ない『みんな』じゃねえよ。この家にいる五人」


 こてっと首を横に倒す宮野さん。ふぁさっと落ちるリボン。


 しばしの沈黙があって、瞳に輝きが戻っていく。最初にあったときのような、自信に満ちた表情になって――


「ゲームで仲良し作戦か! さすがは我が師匠、素晴らしいことを思いつく!」


 拳を強く握りしめて、高らかに笑い声を上げる。


「ふははっ。そうだ! 今までは単純にチャンスがなかったのだ。そのチャンスがあれば、彼女たちとと、とも……ともだ……ハーレムにできる!」

「なんで友達のが精神的ハードル高いんだよ」


 小さく呟くが、当の本人には聞こえていないらしい。

 既に勝ち誇ったような顔で、「では、ボクは心の準備をするので!」と部屋に戻ってしまった。


 来てくれるならいいか。

 これで五人全員参加、と。


 しかし……仲良し作戦ね。


「ふっふっふ」


 甘い。甘いぞ宮野悠奈。お前はまだ戸村真広という人間の底意地の悪さを理解していない。そんな甘っちょろいゲームを用意するわけがないだろう。


 マヤさんは理解しているようだが、「たろ鉄」とは日本全国を移動しながら行うすごろくゲーム。最終的な所持金の量で決着がつく、奪い奪われのゲームである。協力などというものは存在しない。


 だが、それでいい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーんこのダメ人間が集まってるシェアハウス…世界で一番NGな恋愛が繰り広げられそう [一言] 巷で友情破壊ゲームとして名高い◯鉄…
[良い点] ほぉ、〇太郎電鉄ですか… しかし、癖は強いがチョロいぞ女子達(ΦωΦ) トムくんの意のままに動かされてるぞw
[一言] >たろ鉄 何故だろう 架空のゲームなのに、元はRPGでいつの間にかスピンオフだったこっちしか出なくなったものな気がしてならない なんか女の子たちじゃなくて主人公を攻略しようとしてないかこの…
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