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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 1章 ツンデレJCは見返したい
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18話 お出かけ その4

 ちょっと冷静に考えればわかると思うんだけど、女の子が服を選んでいるのを見るのには憧れても、自分の服を選ばれるのだとちっともドキドキしないよな。

 そんなことを言ったら、最近ミリ単位で上昇している好感度がマントルまで落ち込むのでやめておく。


 すべての感情をオフにして、今から俺は着せ替え人形だ。

 七瀬さんが渡してくれる服を、着ては見せ、着ては見せ。飽きてきたらジョジ〇立ちしてみて「ふざけないでください」と言われてみたり。


 選んでくれる服はというと、素人目にもわかるくらいセンスのよいものだった。街中で歩いていたら、「へえ。イケてるなぁ」と思うぐらいには。

 だから問題があるのは服ではなく、本体のほうだった。


「先輩って、ほんとに興味ないんですね」

「うーん。魅力は感じるし、いいなぁと思うんだけどね。必要性を感じないというか」


「必要性ですか」

「そう。俺にとって服っていうのは、煙草やお酒なんかと同じ……今のなし。未成年にするたとえ話じゃなかった」


 俺からすれば失言だったのだが、七瀬さんは妙に得意げにしている。


「いえ。大丈夫ですよ。わかりますから」


 声には出さずとも聞こえてくる。「大人なので」というアピール。

 まったく、これだから子供は。


「なんでそんなに温かい目で見るんですか!?」

「いや。そういう時期が誰にでもあるよなと思って」


「そういう時期ってなんですか、まるで自分は通り過ぎたみたいに!」

「あはは」


「むうぅっ!」


 軽やかに受け流すと、思いっきり睨まれた。なんなら引っ掻いてきそうだ。猫かよ。猫みたいだな。わりと好戦的なタイプの。


「でも、本当にセンスがいいんだな。驚いたよ」

「そ、それは……けっこう調べたりはしてないですけど、どうせ先輩が着る服なので適当にパパッと選んだだけですが幸いです」


 物凄い早口でまくし立てられたので、ほぼ意味がわからなかった。

 とりあえず、センスがいいということに関しては幸い、と。


 七瀬さんはぶつぶつと、小言のように続ける。


「っていうか、先輩はモテたいとか思わないんですか?」

「えっ――モテてどうするの?」


「えっ……」


 七瀬さんは絶句して、あり得ないものを見るような目を向けてきた。生ゴミを見る目とかじゃなく、マジで理解不能なものを見るような目だ。火星人だってもっと優しい視線をもらえると思う。じゃあ俺はなんだ?


「先輩って、薄々思ってたんですけど、そっちの人ですか?」

「そっちとは」


「い、異性に興味がない方なんですか。という意味です」


 わりと真剣に確認するように言ってくる。俺は一体、なにを疑われているのだろう。


「あるある。前も言ったじゃん。特に女子小学生あたりが熱いって」


 軽快な口調で言ってから思った。

 あれ、これってけっこう場所的にやばくない?


 春休みの商業施設には、当然ながら家族連れが多い。家族連れということは、そこには小学生くらいの子もたくさんいて、その親もいるわけで……。

 爆発物から逃げるように、さーっと人が引いてく。ついでに七瀬さんも引いていく。


「ごめんなさい先輩。続きは法廷でお願いします」

「待って! まだ法律で罰せられるような罪は犯してない!」


「法律で罰せなかったらいいっていう発想が危険なんですよ!」


 周りの雰囲気が徐々にマジっぽい感じになっている。これあれだ。俺が七瀬さんを襲ってるように見えてるな。

 なーんだ。人生詰んでるじゃん。


「ちくしょう来るなら来いポリスメン……言い訳の準備ならできている」

「ああもう、バカなこと言ってないで逃げますよ」


「え?」


 ぱっと俺の手を取って駆け出す七瀬さん。ずっと背が低い女子に引っ張られ、ものっすごい姿勢になって走る。

 気がつけば外は薄暗く、太陽は西へ落ちていく。ポリスメンのいる交番から離れ、もちろん駅からも遠のいていく。


 年下の女子に引っ張られる俺。うーん格好悪い。


「ここまで来れば……もう安心ですね」

「発言が犯罪者のそれなんだよなぁ」


「さすが本物の犯罪者は詳しいですね」


 わざわざ言うこともないだろうが、七瀬さんはめちゃくちゃ不機嫌だった。ご機嫌斜めが極まって、ご機嫌タワーが転倒してしまいそうだ。

 いつもみたいにジロッと睨むのではなく、ギロッと睨んでくる。堅気の人間の目じゃない。


「まったく。反省してほしいです」

「申し訳ありませんでした」


「私は事情を知っていたからいいものの、普通の人が聞いたら危ないですからね」

「心に刻んでおきます」


 五個下の女子からのマジ説教。なかなか凹む。


「私は事情を知っていたからいいですけど……」


 同じ言葉をループしている。これはあれだろうか。お説教が長期化するやつだろうか。泣きたくなっちゃうからやめてほしいところだが。


「私だけが知っていたわけですが……」


 いや、微妙にニュアンスが違っているような。


「まあ、私は先輩のことを理解しているのでいいんですけど……」


 どういう流れかはわからないけど、自然と許されそうになっている。

 なんだろう。もしかして今日の運勢が一位だったりするのだろうか。


 しばらく待っていると、七瀬さんは一人で納得したように頷く。


「とにかく、私以外の前ではああいうのはダメです!」


 少しにやけた顔で、そんなことを言ったのだった。

 もしかしてこれ、弱みを握られたやつ?







 かくして初めてのお出かけは終わり、俺は七瀬さんに逆らえなくなった。

 すごいね。大家さんとママの次は女子中学生の尻に敷かれてしまった。


 人生の実績解除が捗るけど、人としてのレベルは低下している気がする。

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃ、気がする、ではないわな。 我が身を犠牲にして、後輩の突っ込み力を鍛えようという、その精神。美しいなあ/w
[一言] 女子中学生に弱みを握られて… うーん…弱みを握ってどうこうするわけじゃないからいいかw うん、いいね。ご褒美だね^^
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