表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
春 1章 ツンデレJCは見返したい
17/173

14話 三人でクッキー

 クッキーなんてそんな簡単に焼けるのかと思ったが、調べてみたら三十分ほどで出来上がるらしい。

 材料をボウルに入れて、せっせと混ぜ、迷いなく成型していく。なにか手伝おうか?と口を挟む暇もない。無駄のない洗練された動きは、これまで焼いてきたクッキーの枚数によるものだろう。


 よほどクッキーの気分なのだろう。周りのことを忘れたように、楽しそうに鼻歌を歌っている。なんの曲かは知らんけども。


「これ食べてみそ」


 すっと差し出されたのは、生のクッキー生地。成型して余ったぶんらしい。


「え、でも焼いてないじゃん」

「いいからいいから。ほら、ゆずちゃんも」


「え、……私もですか」


 米粒より少し大きいくらいの量を手に渡される。


「食ってみな……とぶぜ。ん~~っ、美味しい」


 疑心暗鬼で口にしてみる。香ばしさはなく、だが卵のコクと甘み、それらをまとめる小麦のまろやかさが広がる。


「これは……!」

「美味しい……」


 古河は腰に手を当てて、力強く頷いた。


「これが好きすぎて、焼かないクッキーを食べたことがあるくらいだよ。……お腹壊しちゃったけどね」

「おバカ」


「てへっ」


 だから可愛いっつってんだろ!

 にこにこした状態で、古河は腕を組む。


「これぞ手作りクッキーの醍醐味って感じだよね。不完全な状態の味見。ふふふ」


 料理への愛を語る彼女は、ちょっと怖い。緩急が凄い。そのうち「戸村くんってどんな味がするんだろうねえ」とか言い出しそう。


「焼いたらもっと美味しいから、待ってて~」


 予熱の済んだオーブンへクッキーを放り込んでいく。

 ママだ。完全に古河ママだ。養われてえ。っていうかもう養われてる。変な意味になりそうだから、口にはしないが。


 ほどなくしてクッキーが完成。皿に盛って運ばれてくる。用意しておいたルイボスティーをコップに注ぎ、三人分並べる。


「後でマヤちゃんにもあげよ」

「マヤさんな。本当に忙しそうだよなあの人」


「四月からはちょっと楽になるんだって。そしたら皆でパーティーピーポーだよ」

「たぶんだけど、使い方間違ってるぞ」


 ジップロックに取り分けて、端に寄せると準備は終わり。


「よし。食べよう!」


 手を合わせて、一口。本当はもう少し冷ますのだろうが、熱々もいいよと古河が言っていた。彼女の言っていることは、食に関しては信頼できる。


「お。うまっ」

「でしょ!」

「あふっ」


 舌に熱いのが当たったらしく、七瀬さんが目をつむる。


「でも、……美味しいですね」

「うんうん。気をつけてね」


「はひ」


 小さく舌を出して、うっすら涙目の少女。

 …………これは。


 ちらっと古河と目を合わせる。頷く。考えていることは同じらしい。


「冷たいお茶も作ろうか」

「お姉ちゃんがふーふーしてあげるね」


 父性と母性が芽生えた。


「こ、子供扱いしないでくだひゃ――い」


 途中で噛んでしまい、今度は羞恥で顔を赤くする。パニックらしい。

 すっかり撃沈してしまった七瀬さんを、楽しそうに古河が撫でる。おいそこ代われ――じゃなかった。ちょっとからかい過ぎたか。


 それにしても……だ。

 腕組みして顔に手を当て、本気の集中モード。大学入試センター試験のときと同じぐらいの真剣さで思考する。その結果、導き出された答は一つ。

 この子めちゃくちゃ可愛くないか?


「…………先輩が良くないことを考えている気がします」

「いや、でも俺には小学生が」


「なにと葛藤してるんですか!?」


 危ない危ない。人として大事なことを見失うところだった。

 やっぱ小学生しか勝たん。


 ――もしかすると、俺は既に人として大切なものを失っているのかもしれない。


 だけど今が楽しければ、それはそれでいいかなと思う。


 友人も恋人もいらない。一緒にいて楽しい相手がいて、そういう空間がある。この場所で羽を休めれば、きっといつか。

 また歩ける日が来る。そんな気がしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 長州…ですね…
[気になる点] なんと!めちゃくちゃかわいいとなっ?! [一言] えっと…次回、通報ですね(*^^*)
[一言] 小さいものをめずるのは、生物の本能。 Jc<js<jy? /w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ