表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 4章 熱は微かに、されど確かに
148/173

30話 クラス:親友

 無事に二周目のハブ園を満喫した俺たちは、のんびり歩きながら集合場所を目指す。


「やっぱさ、毒持ってる生き物っていいよな」

「うむ。生存競争の中で獲得した武器は、どれも素晴らしいものである」


「その点人間って、ちょっと弱そうな見た目してるよなぁ」

「なにを言うかトム先輩。人間は頭脳に特化することで、これほど繁栄することができたのだぞ。これほど良い武器があるか」


「ま、そうだけどさ。でもやっぱり、ゴツい爪とか鋭い牙とか、触れたら痺れる毒とかも欲しいわけよ」

「むむぅ。ボクは別に、人類は今のままでいいと思うのだが」


「俺のがガキなんだろうなぁ」


 さっきは言わなかったけど、一番欲しい武器は目からビームです。嫌いな教授が授業してるときにビーム撃ちたい。目から出れば絶対に外さないし。


「トム先輩はガキなどではない。立派な大人だ」

「立派な大人も嫌だよ。プレッシャーで潰れる」


「潰れそうなのは、背負おうとしているからだろう?」

「うーん……そうなのかなぁ」


 首を回して、酸っぱい顔をしながらうなる俺。宮野が言っていることは、的を射ているような気もするけど。じゃあ俺が大人かというと、それは拒否したいと心がわめく。わめいてるうちは、大人になりきれない。


 でも、そういうのっていきなり変わるもんじゃないし。案外俺も、じわじわ変わってるのかね。


「やめようぜ。旅行中だし」

「では、話は戻るが、トム先輩よ」


「おう。どうした、宮野よ」

「親友とは、つまり友人の中で最も地位が高いということか?」


「地位高いは言い過ぎな」

「では、トム先輩の中でのランク、トムランク上位ということか」


「トムランク、響きがキモすぎる。いつの間にそんな概念作ったんだよ」

「ボクは入賞する可能性があるだろうか」


「トムランクなんて言ってるの、世界でお前だけだよ」

「不戦勝であるな」


「お前はなにと戦ってるんだ?」


 初代トムランク王者になるのは構わないが、賞金ゼロ円。あるとすれば、俺が首を傾げるだけの表彰式。不毛なことこの上ない。


 これはあれか。いきなり親友なんて言ったから、宮野の頭がバグったのか。

 バグっても平常運転。平常運転こそが異常運転。みたいな生物だから、いまいち判定ができなかったが、どうやら今はバグっているようだ。


「親友ってのはあれだよ……つまりな、あれだ。あれなんだよ……」


 どうにか収まりのいい言葉を絞り出そうとするが、思いのほか出てこなくて人差し指をうろうろさせる。宮野は俺の指先をじーっと見つめていて、止まるとピタッと止まる。面白くて素早く動かしたら、スッと機敏に彼女も反応する。


 だが、そんなことをしても答えは出ない。おとなしく白状することにした。別に、完璧なトム先輩である必要はないのだ。どうせ宮野の脳内で補正してくれる。


「ごめん。俺、親友いたことないから……正直なところを言うと、上手くは説明してやれない」


 計画性のなさ。語彙力のなさ。反省すべき点はいろいろあって、肩を落とす。

 宮野はなにも言わない。俺はその顔を見ないで、ポケットに手を入れた。


「でも、俺が一番はっちゃけられるのは宮野といるときなんだよ」

「ふむ。なるほど……それは、つまり、親友ということではないか?」


「そうなんだよな。親友になっちゃうんだよ」

「ボクも同じだ。トム先輩を前にすると、いくらでも無茶を押しつけていい気がしてくる」


「うーん、理不尽を感じる」


 それ友情にカウントしていいやつか? まあいいか。被害受けるのも俺だけだし。俺は今のところ、全部面白がってるだけだ。


 宮野は胸に手を当て、うやうやしく頭を下げる。


「では、暫定的に親友という役職を拝命しよう」

「おう。よろしく頼む」


「なあ、トム先輩」


 声をかけてきたものの、宮野は続きの言葉を言いよどむ。足を止めると、彼女も止まった。視線をふらふらと泳がせる。そんな姿を俺の前で見せるのは珍しい。まだバグった脳は戻ってこないみたいだ。


「そ、そのだな……親友としての役割を全うするために、早速なのであるが。今度、どこかへ遊びに行かないか、と」

「どこ行く?」


「いや、ボクとしてはどこでもいいのだが」

「んーじゃあ、無難にビッグバンハンバーガーか?」


「無難とは?」


 俺と宮野といえば、胃袋崩壊RTAこと巨大ハンバーガーだと思うのだが。ちょっと認識違いだったらしい。


「ま、帰ってから話し合おうぜ。遊びに行くのはいつでもいいよ」

「うむ。柚子くんや水希さんに予定を聞いておく」


「他のメンバーも呼ぶのか」

「や、トム先輩の予定をだな」


「俺の予定は俺に聞け」

「善処しよう」


 何回言えばわかってもらえるんだこれ。穂村荘の邪悪な文化の一つ。意味もなく外堀だけ埋めるのはやめてほしい。本丸落とさないと意味ないからね。俺が極度の暇人だから成り立ってるだけ。


 いつものような馬鹿話をしていたら、古河たちの姿が見えた。手を振ると、向こうも気がついたみたいだ。


 さて、宮野と七瀬さんは大丈夫だろうか。

 ま、俺が気にしてもしゃーないよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 宮野のターンエンド。また七瀬さんのターンが来るんだろうか。そして古河さんのターンは… しかし、とりあえず親友でお茶を濁した感じ。それでは済まない時がやってくるんだろうなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ