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人生に疲れた俺は、シェアハウスにラブコメを求めない  作者: 城野白
夏 4章 熱は微かに、されど確かに
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18話 平和な一日

 会がお開きになったのは十一時を少し過ぎた頃。

 移動からの観光で、さすがに皆体力に限界がきてしまった。


 七瀬さんがクラクラしはじめたのを筆頭に、お菓子を食べる速度が下がる古河、静かになったマヤさん、俺の布団に入ってしまう宮野。しまいには「真広、ここは女子部屋なんだから出ていきなさい」とか言われる始末。


「解散しますよ解散。ほら帰った帰ったー」


 ぐーたら四人衆をなんとか追いだして、ようやく我が領土が返還された。不平等条約なんて結ぶものじゃないね。


 宮野とか普通に寝ようとしてたもん。女子高生と同じベッドで寝る。名前のある罪だよもう。俺は適当な警察に話を聞かれても問題なく、楽に出世したい頭サイコロステーキな先輩なのに……。


「まったく」


 緩んでしまう口元に手を当てて、ベッドの中に潜る。目蓋を落とすと、すぐに意識が薄れていく。珍しく、今日はさっさと眠れそうだ。





 遅寝遅起きで有名な戸村くんだが、実は旅先では早起きしがちである。

 六時には目が覚めて、さくっと準備をしたら部屋を出る。知らない街を歩くのは好きだ。早起きできた日は、無性に散歩がしたくなる。


 夜明けの街は静かで、昨日の夜の爪痕が残っている。汚れを取り払うのは昼で、朝は薄汚れている。オールでカラオケした後に見る光景、あれと似ている。どこに行っても同じ。栄えてるエリアって終わってるんだよね。


 あてもなくぷらぷらしていたら、ポケットでスマホが震えた。

 誰からの電話か予想しよう。宮野。


『おはようトム先輩。なぜドアを叩いても中に入れてくれないのか説明してもらおうか』

「この時間に俺の部屋の前にいる理由を教えてくれよ」


 画面を見ないで応答して、心の中でガッツポーズ。大正解だ。


 まあ冷静に考えて、朝の六時半に電話をかけてくるやつなんて、宮野ぐらいしかいない。

 朝の六時半に電話かけてくるようなやつがいちゃダメじゃない?


『説明不要!』

「問答無用みたいに言うな」


『「柚子くん、同じ部屋、寝顔、可愛すぎ、マヂ無理」といった具合だ』

「宮野には刺激が強かったか……」


『その点トム先輩の寝顔は安心すると思ったのだ』

「悪かったな刺激の少ない顔で」


 尊敬という名の銃に罵倒という実弾を込めるのが上手すぎる。俺じゃなきゃこの痛みに気づかなかったぜ。知らない方が幸せなことってあると思います。


『どうか中に入れて貰えないだろうか。後生だ』

「悪いが俺は外だ。ホテルにはいない」


『なんと! 窓からか!?』

「宮野が来る前に出てたんだよ! 俺が忍者だったことが一度でもあるか?」


『一流の忍者は、自分がそうであることを悟られないものだ』

「一流の忍者は沖縄でのんびり観光なんかしないよ」


『ふむ。それもそうか。ではボクも下に降りるから、迎えに来てくれ』

「迷子になるなよ」


 ちゃんとした先輩だったら、生意気だと一喝するところだ。だが、戸村くんはちゃんとしてないことで有名な先輩。後輩からの無茶振りを許すことで生計を立てている。


 どうせ行きたいところもないし、仲のいい後輩と散歩するのも悪くないだろう。


 さてさて、宮野は無事に入り口までたどり着けただろうか。あいつの脳は現在進行形で七瀬さんの寝顔にぶっ壊されてるだろうから、ちゃんと稼働しているか不安だ。今のやつなら、逆に最上階にいる可能性も否定できない。


「おっ、いた」


 と思ったが、やけに見慣れた影が二つ。


「なんにも残さずに部屋を出るのはダメです。せめて書き置きしてくれないと、不安になるじゃないですか」

「はい。……ボクが悪かったです。ごめんなさい」


 ぷんすかする七瀬さんと、しゅんとする宮野。今日は平和な一日になりそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあみんな、旅先でもいつも通り、ですね。 投稿、ありがとうございます。
[良い点]  久々の更新感謝です。  相変わらず言葉のチョイスが面白いw  実家のような安心感。 [気になる点]  信用されているのもあるのどろうが、皆さん戸村氏に警戒感無さ過ぎやしませんか‥‥‥? …
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